デマンド交通とタクシー活用
　　―その計画策定と運行と評価

　デマンド交通、あるいはオンデマンド交通という言葉が一般的に使われるようになってすでに何年もたつ。その間、200近い地方自治体で採用され、地域公共交通に一つのジャンルを構成するまでになっている。デマンドバスという名で予約型あるいは需要対応型の乗合交通が走り始めたのは1970年代の初めであるから、こうした交通の形態自体はすでに40年の歴史と実績を持つが、近年の技術革新や移動を取り巻く環境の変化が、デマンド交通を既存の鉄道・バスなどの大量・中量集約輸送では限界を超える小規模かつ散在する交通需要に対する一つの答えとして、地域交通の重要な地位に押し上げた。

　しかし、優れた手法を上手に活用した事例がマスコミ等を通じて世に紹介されると、ブームが巻き起こる。そしてブームの恐ろしいところは、その地域に本当に合ったものなのかどうかという検証がなされないまま、先進事例のコピーが事例を増やし、そのことがさらに世間をまさに“バスに乗り遅れるな”とばかりに駆り立てて、本来の「地域の移動しにくい人たちを救い、安心して地域で生活できるような仕組みをつくる」目的を忘れ、導入することこそが目的となってしまうことである。

　1990年代後半から2000年代前半まで、まさにコミュニティバスがそうであった。そしてその結果、利用度の低さや財政負担の大きさなどから、2000年代後半以降、コミュニティバス見直しの動きが活発化している。その結論がデマンド交通だったというケースも少なからずあるのだが、ここでまたブームに乗って十分な議論をしないままにデマンド交通を導入すると、数年後には同じことを繰り返すことになるだろう。

　デマンド交通はまだ成熟した地域公共交通の仕組みとは言い難い。それぞれが試行錯誤をしつつより良い形を求めている段階である。だからこそ今の段階で、きちんとデマンド交通の特性を把握し、地域に本当に役立つ交通機関に育ててほしい。筆者自身もこれまで多数の地域の生活交通に関わり、デマンド交通を採用した地域もあるし、議論の末デマンド以外のシステムを構築した地域もある。要はデマンド交通を導入することが地域を救うのではなく、地域に最も合った手法として選んだデマンド交通こそが機能を発揮するのである。そのことをわかっていただきたく、2012年11月に地域科学研究会が主催したセミナーで、デマンド交通への思いの丈を語らせていただいた。本書はその講演録をベースに、資料等を加えて構成したものである。デマンド交通が本来持つメリットを十分に発揮し、バスやタクシーと上手に連携しつつ、地域生活に貢献する交通モードとして育っていくことの一助になれば幸いである。