Intelligent Transport Systemsと
これからのバス・タクシー

ITSという用語がわが国でよく使われるようになってから、かなりの年月がたったと思われる。恐らくは1995年の横浜でのITS国際会議の前後がひとつの大きな変化であったのだろう。わが国では、公的には「高度道路交通システム」と訳されているが、個人的にはこれは適訳とは思わない。ITSはアメリカで生まれた用語で、それは、Intermodal Surface Transportation Efficiency Actという法律の制定の後に、Intelligent Vehicle and Highway Systemsという単語を言い換えたものである。このことからは、道路と自動車だけではない交通全体を統合的に考えることの重要性に配慮している様子が伺える。すなわちITSは、インテリジェントな交通システム全体を指すものとして理解すべきであろう。

これまで、ITSというと高速道路の料金収受やカーナビヘの混雑情報提供、あるいは近未来的には自動車の自動運転などに注目が集まり、それらを支える情報通信技術の開発に焦点があてられてきたきらいが強い。一方、交通政策、交通計画の分野では、混雑による経済損失の問題だけでなく、環境問題や福祉問題などの課題が議論されている。これらの問題に対して、ITSがどれだけの可能性をもたらしているのだろうか。こう考えるとITSに関する議論の課題がまだまだ多いことがわかる。

公共交通に関していえば、自動車利用からの転換により渋滞の緩和に貢献し得るばかりか、環境問題の改善にも貢献する可能一性を有している。福祉の視点でいえば、モビリティの確保の基本的な施策のひとつは乗りやすい公共交通である。財源問題や経営問題を抱える公共交通を、どのように市民が望むかたちにしていくかは大きな課題のひとつである。

本書は、特に公共交通に焦点を絞り、従来のようなシーズ指向の議論ではなく、本当に求められている問題に対して、現在のあるいは近未来の情報通信技術で　どこまで対応できるのか、そのために今後どのような技術開発、制度改革、あるいは公民各セクターの努力が必要となるのか、そういった問題意識の下で議論を展開している。公共交通事業者あるいは地方自治体の関係者で、ITSを活用した公共交通の活用に興味のある方々にぜひご一読いただき、より活発な議論を展開していただくことによって、技術が目にみえるかたちでより実用的になっていくことを期待してやまない。

「交通計画集成」に続く資料集の発行については、当会にとって課題となっていました。今般、中村文彦氏のご助力によって本書を刊行することで、ようやく次のステップヘの第一歩を踏み出すことができました。中村氏はじめ著者の方々に厚く御礼申し上げます。

本書を、「コミュニティ交通編」巻1としましたのは、下記のようなシリーズ化を考えているからです。新しいシリーズの最初のテーマに「情報化による公共交通の活性化」を選んだのは、ITSがめざすことの中には、ETC等のハードの整備はもちろんですが、もっと私たちの身近な移動環境にその活躍の場があるのではないかと考えたからです。

これからの交通まちづくりには、これまでのような需要追随型の考え方とは違った取り組みが求められています。「空気を運ぶバス」から「地域と経済に活力を与える、自分たちで育てることをめざしたバス」を、地域と行政と事業者と専門家・コンサルタントが知恵を出し合ってつくることが求められているのではないでしょうか。そのキーワードの一つが、高齢者や幼児を連れたお母さんなどの移動を制約された市民が気軽に利用できるという、ユニバーサルデザインの思想に根ざした交通システムをつくりだすことではないでしょうか。

「コミュニティ交通編」 の製作の考え方について

日本各地でようやく姿を現してきた、地域の個性と文化を尊重した公共交通、コミュニティバス・タクシー。
そのシステムづくりのプロセス、実現手法をはじめ、財源の確保や地域の参画方策等について資料や情報を集大成する場として「コミュニティ交通編」を企画しました。

■活字と映像メディアの活用
　「コミュニティ交通編」は、これまでの資料集成に加えて、オートスライド（ビデオ）による映像メディアを活用して、地域や市民、行政、事業者等に情報を発信します。

■編集委員制と監修制の併用
　「交通計画集成」と同様、編集委員による検討を踏まえて、編集委員が監修を担当する方法によって刊行していきます。

■課題のリニューアルと新しいテーマヘの挑戦
　これまでのバスやタクシーの課題をどう解きほぐし、地域に定着させるのか、新しい地域・市民ニーズにどう対応するかなどを大切にしていきます。例えば、交通弱者やバリアフリー、福祉と交通のサービス領域、運賃の意味づけ、財源の確保方策、デザイン、ネットワークなど、無限にあります。それらを順次取り上げていきます。

■タクシーもコミュニティ交通
　これまでの公共交通では、タクシーについては余り重きを置かれていませんでしたが、これからの超高齢社会ではバスとタクシー、さらには私的交通が、それぞれに役割を分担し、連携することが求められています。