資料シリーズ(書籍)のご案内 (まちづくり資料シリーズ、シリーズ・内発
的発展)
資料シリーズ31 コミュニティ交通編 巻10
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バス・タクシー・鉄道等々を活用した新交通まちづくり―
MaaS日本版―開発・活用と地域活性
~国の推進施策と自治体・交通事業者・地域の連携、
プラットフォームの構築・実装~
◆〔国交省〕地域公共交通イノベーションと日本型MaaS展開の推進
◆フィンランドWhim報告/西鉄のMaaS戦略/郊外向けMetro-MaaS構想
◆MaaSとモビリティ革命―プライシング・ブランディングとタクシー、新しい交通まちづくり
◆手段としてのMaaS活用方策とプラットフォームの設計・開発主体
※MaaS(マース/Mobility as a Service/モビリティのサービス化)
〈本書を推薦します〉
中村文彦/横浜国立大学副学長 森本章倫/早稲田大学理工学術院社会環境工学科教授 清水弘子/NPO法人かながわ福祉移動サービスネットワーク理事長
書籍の概要
体裁 |
A4判/222頁 |
発刊 |
2019年10月4日 |
定価 |
5,445円(本体価格4,950円/送料込) ISBN 978-4-925069-06-9 |
執筆者
※役職は講演又は
執筆時(2019) |
城福 健陽/国土交通省総合政策局公共交通政策部長(現・海事局次長)
[編集] 吉田 樹 /福島大学経済経営学類准教授、国土交通省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」委員
藤垣 洋平/小田急電鉄㈱経営戦略部モビリティ戦略プロジェクトチーム
阿部 政貴/西日本鉄道㈱自動車事業本部計画部計画課長(現・経営企画部課長)
牧村 和彦/(一財)計量計画研究所理事兼研究本部企画戦略部長
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申込方法 |
申込用紙(フォーム)に下記の所要事項を記入の上送付下さい。
■所要事項 : 勤務先、氏名、所属部課役職名、所在地、TEL、FAX、MAIL、支払方法、必要書類、等
■申込用紙 : お申込みフォーム FAX・メールでのお申込み パンフレット(PDF:2,488KB) |
書籍の内容構成
●巻頭言 MaaSは「何のために」構築するのか 吉田 樹(福島大学経済経営学類准教授) 2019.9.5
MaaS(Mobility-as-a-Service)という言葉が経済誌の表紙を飾るようになった。地域公共交通に関する話題は、サービスの縮小や撤退など、ネガティブなものが多いなか、MaaSは、ポジティブな未来志向として捉えられている。ICT(情報通信技術)の高度化により、モビリティサービスの選択肢も拡がっているが、「見栄えのよい」パーツに目が奪われ、MaaSを「何のために」構築するのか、という議論が抜け落ちることは避けなければならない。MaaSの概念を生みだしたフィンランドでは、都市部の渋滞や環境問題のほか、地方部の高齢者や移動困難者の交通問題を解決することを目的としてMaaSが位置づけられている。しかし、わが国ではMaaS Global社が提供するアプリ“Whim”に注目が集まったため、モビリティサービスの検索、決済にサブスクリプション(定額制サービス)を盛り込んだアプリ開発を行うことが目的になりがちである。また、公共交通が不便な地域で、AI(人工知能)を活用したオンデマンド交通やライドシェア(自家用車の相乗りサービス)アプリを導入すること、あるいは、自動運転サービスの実証といったパーツを採り入れることで、MaaSが実現したと言われることもある。
MaaSには、モビリティサービスの「メニューを増やす」ことと、情報技術を活用してメニューを「束ねる」ことの二つの側面があり、自家用車を専ら運転する生活に代わり得る「選択肢」になることが求められる。わが国の地方部は、居住地や目的地が鉄道駅から離れて立地することが少なくないため、多くの市民が自家用車を保有し、運転することで高いモビリティを獲得してきた。しかし、高齢ドライバーの交通死亡事故リスクは高く、個人の身体機能や体調にあわせて「無理に運転しなくてもよい」環境が求められている。長期的には、分散した都市機能を集約し、居住地と有機的に結びつけるスマートな地域づくり(いわゆる「コンパクト・プラス・ネットワーク」)や、運転支援技術の高度化や自動運転の社会実装に取り組むことになるが、「未来予想図」が現実になるまでには、相当の時間を要する。そのため、モビリティサービスの「メニューを増やす」アプローチが必要である。電動の低速走行車両であるグリーンスローモビリティ(例えば、公道での走行が認められたゴルフカート)をはじめとした「小さな」モビリティの導入が各地で模索されているほか、限られた区域であれば、乗用タクシーの定額制サービスを導入する(但し、現行法では、近距離の定額運賃は認められておらず、認可運賃との差額を第三者が補填する、もしくは旅行商品として販売する必要がある)ことも有力な選択肢である。
一方、公共交通のサービス水準が高い大都市圏でも、高齢化が進展し、鉄道駅やバス停留所にアクセスする「ラストマイル」のモビリティ確保がこれまで以上に課題となり、モビリティサービスの「メニューを増やす」ことは、地方部と同様に求められる。一方、わが国では、鉄道事業者が沿線開発を積極的に進めてきた経緯があるため、大都市圏のMaaSは、沿線価値の向上を図る目的で、鉄道事業者を主体としたトライアルが始まっている。わが国の公共交通事業は、独立採算原則が貫かれてきた国際的にも珍しい特徴がある。また、不採算路線を多く抱えた地方部とは異なり、大都市圏の交通事業者は、高い投資力を有しているケースがある。そのため、ややもすれば、交通事業者の「囲い込み」戦略としてMaaSが位置づけられる可能性もある。
「何のために」MaaSを構築するのか。交通や移動に関わる諸課題を解決する、すなわちモビリティの向上を目指すのであれば、多様化するモビリティサービスを「束ねる」視点を国や地方公共団体は、強く意識する必要がある。「囲い込み」戦略は、供給者の視点としては合理的に見えるが、交通行動をおこなう「人」の立場では、モビリティサービスの選択肢を狭めてしまうことになりかねない。ICTが高度化するなか、モビリティに関わる「協調領域」の情報をオープンかつリッチにすることが求められる。時刻や運賃の検索に要する静的なデータはもとより、基本的な決済システム、バリアフリー設備をはじめとした道路交通施設の情報など、交通事業者ごと、あるいは、行政内部でも異なる部局がそれぞれ整備してきた情報をどのように結びつければよいかを議論しなければならない。フィンランドで“Whim”が誕生した背景には、多様なモビリティサービスを「束ねる」ための情報戦略を政府として取り組んできたことが挙げられる。一方、モビリティサービスを物理的に「束ねる」視点も欠かすことはできない。同一経路を運行するのに事業者ごとで異なるバス停留所(駅前のターミナルなどでよく見かける)は、その典型である。「競争」から「共創」へ。MaaSが目指す社会を実現するためには、モビリティに関わるプレイヤーの意識改革こそが求められる。
さて、本書は、2019年2月に行われた、地域科学研究会主催のセミナー「MaaSの構築・活用戦略と交通まちづくり方策」の講演内容に基づき編集されたものである。国土交通省が設置した「都市と地方の新たなモビリティサービスに関する懇談会」において、日本型MaaSをどう展開すべきか、活発に議論されている最中での開催であった。懇談会の総括を担った国土交通省公共交通政策部長(当時)の城福健陽氏の基調報告に始まり、“Whim”のサービス構築にインターンで関わり、現在は小田急電鉄のMaaS構築に関わる藤垣洋平氏、福岡市内を中心にわが国で先行したMaaSの取り組みとなった西日本鉄道の阿部政貴氏、さらには、都市空間の再編成にMaaSがどうインパクトを与えるかを論点提起した牧村和彦氏の報告と続き、わが国のMaaSを「何のために」構築するかを集中討議する貴重な機会となった。このような場を設けていただいた、地域科学研究会の緑川氏、大石氏をはじめとする皆さまに感謝を申し上げるとともに、本書を手にされた読者の方々が、「何のために」MaaSに取り組むかを改めて考えていただく契機となれば幸いである。
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第1章 【基調報告】地域公共交通イノベーション推進施策~地域公共交通と日本版MaaSの展開~
国土交通省 城福 健陽
- 地域公共交通のフォローアップ
- 地域公共交通活性化・再生法の基本スキームと進行状況
- 地域交通のイノベーションへの取組み
- 新たなモビリティサービスとその推進~新モビリティサービス推進事業「Maas先行モデル19事業」他
第2章 MaaS日本版の構築・実装・展開と交通まちづくり、西鉄のMaaS戦略
第1節 MaaSの構築から交通まちづくりへの展開-プレイヤーの連携と公共交通マーケティングが鍵を握る-
福島大学 吉田 樹
- MaaS(モビリティのサービス化)の一般的な成長過程
- 求められる公共交通マーケティングの7つの視点
- 「収益事業」とされてきた日本のバス事業の実態
- 「公共交通軸」の形成とブランディング
- バス交通のプライシング
- 公共交通網の形成とMaaSのインパクト
- 自動車の運転可否と活動機会の関係性
- 超高齢社会のMaaSとタクシーへの期待
- モビリティと「おでかけ」「おでかけパッケージ」
第2節 MaaSが目指す世界観と交通計画への応用可能性
小田急電鉄㈱ 藤垣 洋平
- MaaSの実践例―フィンランドのWhimの事例紹介―
- 多様なMaaSの捉え方と共通点―目標とする世界観
- MaaSの発想を活用した地域公共交通計画の新展開
- 郊外向けMetro-MaaSの可能性~東京大学の調査から~
第3節 西日本鉄道のMaaS戦略 ~マルチモーダル検索サービス(my route)の実用性検証とこれからの方向性~
西日本鉄道㈱ 阿部 政貴
- バス事業の課題とICT・AIの活用
- ダイヤ分析・可視化プラットフォームの構築
- トヨタ自動車様との連携~「my route」によるマルチモーダルルート検索アプリの実用性検証~
- 民間事業者から見たMaaS実現への課題
- バス会社はMaaSにどう関わるか
第4節 MaaSと交通まちづくり~モビリティ革命と新都市計画~
(一財)計量計画研究所 牧村 和彦
- モビリティ革命を牽引するMaaS
- MaaSが都市に与えるインパクト
- MaaSと新都市計画~街路空間のリ・デザイン~
おわりに
第3章 〔パネル討論〕日本型MaaSの構築と運用
―プラットフォーム「開発主体」と交通事業者・行政・地域の参画・連携
〔司 会〕吉田 樹 (福島大学)
〔パネラー〕藤垣 洋平 (小田急電鉄㈱)、阿部 政貴 (西日本鉄道㈱)、牧村 和彦 ((一財)計量計画研究所))
- 日本の公共交通事業とMaaS活用
- 日本型MaaSへのアプローチ
- 手段としてのMaaSの活用方策
- [Q&A]MaaS―誰がどう設計し運用するのか