Intelligent Transport Systems
道路･交通･情報システムとそのアクションプログラム

交通と情報通信の結合は、これまでの交通現象を根本から変えるといわれている。その理由は、交通と情報通信が、①代替、②補完、③相乗の関係にあるからである。すなわち、情報量が多くなれば、それだけ人も物もそのモビリティ量は増加する。

一方、前もって得た情報は、人や物のモビリティを思い止まらせたり、変更させる力も持っている。交通と情報通信の結合によって交通需要が顕在化することもあり、増加することもある。また、潜在化することも、減少することもある。しかし、いずれにしても交通現象が大きく変化することには間違いない。一方、道路と情報通信の結合は、危険のシグナルをいち早く流すことで安全を確保できる場合もある。また、道路と交通の関係も情報通信の介在によって安全性と効率性を高めることができる。これら道路・交通・情報の3システムを結合させ、道路交通情報通信システム、道路安全システム、輸送効率化システムなど高次のシステムを目指して構築されたITSは、21世紀前半の星としてデビューしてきた。電化製品、自動車産業に続くビジネスとしての期待が込められているのも、この点にある。しかし、まだ産声をあげたばかりで、その将来は海のものとも山のものとも分からない。人類の願望に近い高速で、自由なモビリティを車によって獲得できたが、まだ安全面、効率面・混雑面など不十分な点が多く、完全な社会システムとしては改善の余地が多い。この点を完全に近い形でバックアップできるシステムがITSであるということの期待も込められている。

本書は、このITSの技術が現在どこまで進んでおり、将来どのような使い方がなされるか、また、どのような方法、セクションで管理し、運用していくのが望ましいのか、このような最新情報を収集整理したものである。これから、いろいろな交通の場面ではもちろん産業、行政、政治、社会の中のITSが議論され、よりよいシステムを目指して検討されることと思う。その検討の際に、本書を役立てて戴ければ編者・著者一同望外の喜びとなる。そしてまた、次なる段階の技術開発、システムの展開がまとめられることを期待してやまない。

10年程前から「欧米から学ぶことは少なくなった」「日本は欧米に20～30年遅れている」という声を耳にします。矛盾して聞えますが、実は同じことのようです。それは、日本は個々の技術では優れていますが、考え方やシステムとしてみた場合は、多くの問題を抱えているからです。ITSは、その意味で日本の都市・交通政策に大きな転換期をもたらしていると思います。

しかし、まちづくりの現場ではシステムとしての交通計画より、定量化できる要素をベースにしたプランニングが目立ちます。つまり利用者や市民の二一ズ、都市・圏域の課題や資源などの定性的な調査を加味した計画が求められているのです。交通は特に、市民の生理や心理に負う面が多いからです。

ところで、本書の企画に際して、ITSに期待していることがあります。

■高速道路の渋滞解消一ノンストップ自動料金収受システム(ETC)の採用
　高速道路で困るのは料金所での渋滞です。オスロ市のように希望するドライバーが利用できるようにすれば、相当数の利用者があることでしょう。また高速道路の渋滞は盆や正月といった日本の伝統や文化に根ざしています。ETCに渋滞区間のレーン増設が加われば、その効果は一層上がることでしょう。

■高齢ドライバーの安全運転の支援
　高齢者、特に後期高齢者(75才以上)は生活上欠かせないために車を運転することが多いようです。公共交通の整備や福祉サービスの充実には時間もコストもかかりますので、ITSによる支援が期待されています。

■歩行支援システムー移動制約者への新しいサービス
　高齢者・障害者に限らず、子ども連れや荷物を抱えた人など移動に助けを必要としている市民はたくさんいます。歩行空間や交通結節点、公益施設、交差点等での歩行支援を充実し、ネットワークさせるシステムの構築は欠かせません。

■パーキング情報の充実
　自動車を利用する(せざるを得ない)人にとって、駐車場情報を自宅で得、目的地を選択できることが望ましいのではないでしょうか。

■都心空洞化対策としてのITS
　地方都市における都心空洞化は深刻です。ハード・ソフトの豊かなストックを生かして都心を再生させるためには、限られた公共空間利用の見直しが欠かせません。人と自転車と自動車と公共交通が共存するシステムが都心を衰退か救うことは、欧米の取り組みが教えてくれます。特にバスや路面電車といった公共交通の再編・充実と見直し・活性化が重要となっており、ITSの近未来の姿があると思います。

ITSが次代の日本のリーディング産業となるためには、市民や利用者の二一ズ、都市や圏域の課題等に応えることが大切ではないでしょうか。本書は、監修の高田邦道氏を初め、執筆者の多用の中でのご協力があって刊行できました。ありがとうございました。私たちは次なるステップをめざしたいと考えております。