山形県金山町に情報公開条例が出来て以来、約20年の時が流れようとしている。この間、すべての都道府県政令市を含めて、全国で580団体(1998年7月現在)で情報公開条例(もしくは公文書公開条例)が公布、施行されている。しかし、いまや、情報公開条例は、国の情報公開法要綱案、情報公開法案の国会提出によって、大きなターニングポイントにさしかかっている。
行政のアカウンタビリティの観念が次第に定着すると同時に、規制緩和政策、国際的なハーモナイゼーアションによって、行政のあり方も構造的な転換を迫られているからである。
日本の行政体制は、従来、西欧諸国へキャッチアップするためのシステムとして、霞ケ関を中心とする政策立案・立法とそれを執行する都道府県・市町村という図式で行われてきた。
このような方式は全国画一的な平等な行政サービスという点ではすぐれた手法であったが、現在このような制度枠組みは疲労し、機能不全となってしまった。情報公開条例で明るみになったことは、こうした体制に寄りかかり、安逸を貪ってきた行政のスタイルであった。
国の情報公開要綱案、情報公開法案は、こうした一連の改革政策のなかで練り上げられてきたもので、情報公開法制の集大成とも言うべき側面を持っている。
今後、あたらしく情報公開条例を制定する自治体も、公文書公開条例を再検討する自治体も、国の要綱案や法案をものさしにして作業していくことになるであろう。
本書は、国の要綱案が発表される前と発表された後の二回にわたる、地域科学研究会でのパネルディスカッションを機に、パネラーの論文をくわえて編集したものであり、情報公開の実務に即した議論を展開したものである。読者は、情報公開要綱案が発表される前と後の議論や論考を読むことによって、情報公開制度のどのような点が議論されていたのかを知ることが出来るし、また要綱案そして法案をめぐる諸問題に関する議論や論考をみることによって、その変化を知ることが出来ると思う。
われわれは、現在、歴史の転換点にたたされて、戸惑いながら新たな道を模索している。行政については、行政と市民・住民のパートナーシップをどのように築いていくのか、市民参加、住民参加を真に実りあるものにするはどのようなシステムが必要であり、また可能であるのか。そうした困難な道を探し求めなければならないのである。
情報公開制度は、このような意味で、社会連帯主義のための制度でなくてはならない。行政の透明性の確保がその第一歩であることは疑いがないが、市民社会の連帯のための監視であり、参加であることが大事だと思う。
数多くの行き過ぎた行政慣行が、情報公開制度によって明るみに出され、是正されてきたが、そうした監視機能のみでなく、参加を実り豊かに結実させることが今後の課題であろう。
民主主義とは、たんに同意を求める政治システムではなく、「討論」を通して、相手方の意見に耳を傾けることに(それだけに参加者は互いの意見を謙虚に聞く寛容さが要求される)あると、政治学の泰斗リンゼイが説いている。
行政も市民も不信のままでは民主主義の前提を欠いたことになる。情報公開制度がこうした信頼回復のための制度として機能することを期待したいと思う。
本書は、編者の一人である鈴木が、1997年にオーストラリアに留学したため、編集が大幅に遅れたこと、その間、要綱案をめぐる議論の深化や判例の展開があり、全体としての統一性をとることが必要になったため、パネラーの方々に当時の記録に大幅に加筆補正をお願いしたパネラーの諸賢には記して御礼申し上げたい。また特別寄稿して頂いた兼子仁先生にも心より御礼申し上げたい。
本書が情報公開制度のさらなる発展の一助となれば幸いである。
情報公開をめぐる判例・法の動向が日々刻々と変わるという困難な状況の中、2度も校正をお引き受け頂きました著者の方々、そして後藤仁先生、鈴木庸夫先生に厚く御礼申し上げます。
当会が自治体の情報公開について取り組むきっかけは1981年(昭和56年)8月の研修会「自治体における情報公開-その制度化への実践と課題」でした。当日は神奈川県、埼玉県、川崎市の担当者等の取組みと、堀部正男先生(元・一橋大学/現中央大学教授)等にご講演頂きました。その当時に比べ、最近はあらゆる行政課題でアカウンタビリティが問われるようになり、また臓器移植など社会問題でも当たり前のように「情報公開」が議論されるになってきました。
しかし、当時議論されていた課題はいまも生きており、法律になるまでの先進自治体をはじめ、情報公開法要綱案等を検討された関係者の蓄積があればこそ情報公開法の成果に繋がってきたと思われます(現在、衆議院を通過し参議院にて審議中)。あるいは、本書で議論されたような内容・論点がより深められた結果、直接的にでないにしろ情報公開法や東京都情報公開条例制定に繋がってきたように思われます。参考に第4章の[提言]等をぜひとも御覧下さい。
地方公共団体は、法第41条で必要な施策を策定・実施するよう努力義務が課せられました。情報公開制度の制定や運用について、今後も関係者の苦労が予想されるのですが、それも市民の行政に対する期待や関心が従来より高まっているからこそです。
そのためにも、法律の条文のみでなく、法制定に至るまでにどんなことが議論されてきたかを知っておくことが重要です。本書がその助けになればと願っています。
これからの課題は全国の市、さらには町村レベルでの制度の制定、条例の見直し、公開を前提とした文書管理や公文書館、電子情報化対策、外郭団体や議会の情報公開、個人情報保護への取組み等が議論になろうかと思います。研修や出版などを通じて有意義な情報提供に努め、広い意味でのまちづくりに貢献したいものです。
最後にスケジュ-ルが厳しい中、「情報公開制度の新たな展開のために[提言]」および「東京都情報公開条例」の掲載許可を頂きました東京都に感謝致します。さらに発刊が伸び、既に申込み頂いた方にご迷惑をおかけしましたことをおわび致します。