空き家等の適正管理条例

　日本においては、戦後一貫して、新築住宅の戸数は右肩上がりになっているが、空き家の戸数の増加も同様の状況にある。需給バランスを考えると、賃貸市場に供出される空き家の数には、必然的に限界がある。また、持ち主がそもそも賃貸市場に出す気がない、さりとて、活用する意思もない空き家の割合も少なからずある。

　空き家であっても、適切な管理がされている以上は、問題は少ない。ところが、所有者の転居や死亡などの理由で管理が疎かになった空き家は、「廃屋」への道をひた走ることになる。こうした状況は、地域のいかんを問わず、全国的に発生し、深刻化の度合いを急速に高めている。雑草の繁茂、動物の棲み着き、倒壊や建材の飛散のおそれなど、老朽化した空き家は、地域社会に対して、不安と危険をもたらしている。空き家予備軍の数は、計り知れないほどである。社会的にも関心を呼び、テレビ、新聞、雑誌において特集が組まれることも多くなってきた。

　「何とかして欲しい」という住民の声は、いきおい市町村行政に寄せられる。しかし、現場では、活用できる法律規定は必ずしも十分にはないと考えられている。そこで、最近では、条例を制定して、空き家問題への対策を規定する自治体の数が急増している。首長部局提案のものもあれば、議員提案のものもある。自治体政策法務の実践事例として、社会的にも注目されているのである。本書は、最先端の条例対応をしている自治体の事例を報告するとともに、空き家問題の法的論点を整理したものである。

　条例を制定したとしても、的確な実施がなければ意味はない。しかし、それにあたっては、克服すべき課題も少なくない。条例化はこの数年の間に急速に進んでいる。お互いに学び合って、よりよい条例の制定とその運用を実現することが期待されている。

　空き家対策には「正解」はない。本書に収録された諸論文、そして、条例を制定・実施している自治体担当者によるパネル・ディスカッション、参加者との間の質疑応答のすべては、この行政課題にこれから対応しようとする自治体にとってはもちろん、制定後の運用に苦労する自治体の関係者に対して、有益な情報を提供しているように思う。本書が関係者に広く活用されることを願っている。