環境対策条例の立法と運用

　住民の生活環境の保全は、地方公共団体の重要な責務であり、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」（以下「廃棄物法」という）は、一般廃棄物の処理を市町村の義務としている。他方、住民も、市町村が定める一般廃棄物処理計画に従い一般廃棄物を適正に分別し、保管する等、市町村が行う一般廃棄物の収集、運搬および処分に協力する義務を負っている。しかし、この協力義務を履行しない住民も皆無でない。とりわけ最近大きな問題になっているのが、いわゆる「ごみ屋敷」であり、景観の阻害、悪臭、放火の危険等、周辺住民に大きな不利益を与えている。この問題への廃棄物法による対応には限界があり、そのため、条例で対応する自治体が増加しつつある。

　本書では、住民の生活環境を保全するために、条例でこの問題に対応する方策について、先駆的条例を素材に検討するものである。地方行政に造詣の深い辻山先生のご論稿を掲載しているほか、足立区、荒川区、杉並区の職員に、この問題への取組について執筆していただいたので、同じ問題に悩む自治体議員・職員の方にとって参考になるものと思う。

　いわゆる「ごみ屋敷」の中には、所有者が所有の意思を放棄しており、廃棄物であることが明確であるにもかかわらず、適切な廃棄を怠っている場合と、客観的には廃棄物といわざるを得ないにもかかわらず、所有者の異常な収集癖により、廃棄がされていない場合がある。後者の場合には、これを廃棄物処理の問題として対応することには困難が伴うことになるが、たとえ、所有者が所有の意思を放棄しておらず、自己の敷地内に置いている場合であっても、それにより景観を阻害したり、悪臭をまきちらしたり、放火の危険を生じさせたりすることは許されるものではない。条例では、後者の場合を含めて実効的な対策を講じられるようにしておく必要がある。

　本書が、自治体における生活環境保全条例の制定にお役に立つことができれば幸いである。

宇賀　克也