行政代執行の手法と政策法務

　地域科学研究会は、2012年8月に、『空き家等の適正管理条例』を出版した。同書は、2010年ごろから多く制定されていた市区町村の空き家対策条例の到達点を確認し、実務的課題などを指摘したものであった。

　その後も条例制定の動きは弱まることなく、2014年10月までには、おそらく370ほどの市区町村で条例が制定されていた。そのなかには、本書において紹介・議論されるように、行政代執行という手段を用いて強制的に解体する事例も目立つようになってきた。

　本書は、行政代執行による老朽空き家の解体に焦点を合わせた初めての書物である。一般に、行政代執行は、自治体行政現場においては、きわめて非日常的な選択肢である。前提となる解体命令を適法に出すことができるのか、ノウハウが十分にない行政代執行を適法にすることができるのか。老朽空き家解体にあたった担当部署は、まさに試行錯誤であったようにみえる。

　しかし、そうしたハードルを乗り越えてでも行政代執行をしなければならなかったのは、当該老朽空き家を放置することが、社会にとって重大な危険をもたらすからであった。全国的にみれば、行政代執行事例は少ない。これは、実施自治体以外では、行政代執行をするまでには至っていない物件ばかりであることを意味するわけではない。おそらくは、同様な状態にあるけれども、種々の事業によって、解体命令の発出および行政代執行の実施決断がつかない事案が少なくないのであろう。

　そうした状況に鑑みれば、本書は、自治体行政現場で空き家対策に悩む職員に対して、有益な情報を提供できているのではないかと思う。また、本書の内容は、行政法学にとっても、きわめて貴重な知見を提供しているように思う。独立条例にもとづく命令の行政代執行を実施した大仙市および大田区、建築基準法にもとづく命令の行政代執行を実施した大阪市からの詳細な報告、参加者からの実務的な質問、そして、宇賀克也教授の行政法学の観点からのコメントを収録した本書は、まさに理想的な執筆陣により構成されている。

　本書の前提となったシンポジウムは、2014年10月30日に開催された。その直後の11月19日に、衆議院国土交通委員長提案の「空家等対策の推進に関する特別措置法」が可決成立した。同法のもとでも、対策のひとつの手段として、行政代執行が規定されている。本書の内容は、同法の実施にあたって、市区町村担当者にとって大きなサポートになると確信するものである。