資料シリーズ(書籍)のご案内 (まちづくり資料シリーズ、シリーズ・内発的発展)
まちづくり資料シリーズ25 交通計画集成 巻11
移動制約者の交通環境整備
ユニバーサルデザインのソフトとハード
[監修] 岡 並木 評論家 (比較都市論)
書籍の概要
体裁 |
A4判/256頁 |
発刊 |
1997年1月 |
定価 |
定価 9,515円 (本体価格)+税 ISBN 978-4-925069-76-2 |
執筆者
※役職は講演
又は執筆時 |
溝端 光雄/東京都老人総合研究所 生活環境部門 室長
工藤 武重/日本ウエルエージング協会 常務理事
岡 並木/評論家 (比較都市論)
鈴木 春男/千葉大学 文学部 教授
中村 英夫/建設省 大臣官房 福祉環境推進室 課長補佐
大石 一/日経産業消費研究所 主席研究員
清水浩志郎/秋田大学 鉱山学部 教授
秋山 哲男/東京都立大学 工学部 専任講師
上杉 輝之/兵庫県 福祉のまちづくり工学研究所 次長
上野 和彦/(株)日建設計 東京計画事務所計画室長
和平 好弘/(財)運輸経済研究センター 研究調査部
栃木 義博/日本私鉄労働組合 九州地方連合会 |
申込方法 |
申込用紙(フォーム)に下記の所要事項を記入の上送付下さい。2~3日以内に発送致します。
■所要事項 : 勤務先、氏名、所属部課役職名、所在地、TEL、FAX、MAIL、支払方法、必要書類、等
■申込用紙 : お申込みフォーム FAX・メールでのお申込み |
書籍の内容構成
第1章 高齢者・障害者の移動特性 ~ソフトインフラとしての交通環境整備に向けて~
1. 高齢者・障害者の移動に係る生理的・心理的特性
溝端 光雄 (東京都老人総合研究所)
2. 高齢者の行動特性 ~シニア体験プログラム~
工藤 武重 (日本ウエルエージング協会)
3. 高齢化社会の移動環境
岡 並木 (評論家)
4. 高齢者の生活構造と交通環境
鈴木 春男 (千葉大学)
5. 高齢者の交通特性と運転環境
中村 英夫 (建設省)
6. 福祉のまちづくりに向けた社会資本の整備
大石 一 (日経産業消費研究所)
第2章 移動制約者のモビリティ確保とユニバーサルデザイン
1. 移動制約者と交通計画 ~ノーマライゼーションを基本としたまちづくり~
清水浩志郎 (秋田大学)
2. 福祉のまちづくりと交通計画
秋山 哲男 (東京都立大学)
3. 福祉のまちづくりと災害時の移動制約者への対応
上杉 輝之 (兵庫県福祉のまちづくり工学研究所)
4. まちづくり計画とバリアフリーデザイン
上野 和彦 (日建設計)
5. 高齢者・障害者が自由に利用できる都市交通
和平 好弘 (運輸経済研究センター)
6. 元気な高齢化社会をつくるバス交通
栃木 義博 (日本私鉄労働組合九州地方連合会)
第3章 高齢者・障害者の交通・まちづくりに関する文献
●監修にあたって
1994年から3年間、私は武蔵野女子大学と同短大の学生諸君とつき合ってきた。
どの授業でも、多かれ少なかれ高齢者の問題に触れてきた。
いまの日本の街のあり方が、あまりにも人間の本音とは離れた方向へ進んできてしまったと思い、またこの状態の修正が本物になるのは、いまの若い人たちの時代だろうと考えるからだ。
そして若い人たちに考えてもらいたかったのは、高齢者にとってつらい壁は、程度の差はあれ若者にとっても壁になっているはずであり、その壁を低くすることは若者自身にとっても必要だろうということである。
短大の社会学の時間には、各期とも学生諸君に一度は街へ出て、自分の目で街のあり方を見つめてもらった。
文学部の学生諸君には講義の時間にビデオやスライドで、いまの街のおかしさを考えてもらった。
また、予算の関係で有志に絞らざるをえなかったが、高齢者の疑似体験もしてもらった。
疑似体験のレポートから拾うと、彼女たちは、次のような体験をしていた。「アルバイト先で自分のレジに高齢者が並ぶことを嫌がったり、お金を出そうとしてもたつく高齢者にイライラしたりしていたことを、恥ずかしく思い出した」。
「バイト先のサラダ売場にも、高齢者が沢山おみえになる。
忙しいときに値段を何度も聞き返されると、笑顔もひきつってしまい、無愛想な態度を取っていた。
ところが疑似体験の前にビデオを見せてもらったときに、日常私たちが何気なく行っている動作が、高齢者にとってはどんなに大変なことかを知った。
体験後の私は、自分でも驚くほど店頭での高齢者に対する態度が変わった」。
「日頃から駅や街のつくりに、一体どうしてこんな階段ばかりの無神経なつくりにしてしまうのかと疑問をもっていた。
疑似体験をしてみて、あらためてこれほどまでに大変なのかと腹が立つと同時に、武蔵野女子大も例外ではないことが分かった」。
「街づくりも見掛けだけでは駄目だ。それを疑似体験で知った。
高齢者が不自由なことは知っていたが、どの点で、どのように行動しにくいのかは体験しなければ分からない」。
「案内板や通路、階段などが、デザインばかりが強調されて、様々なハンディを負う利用者の角度から、使いやすさを考えたという痕跡がまったくないことに気づいた。
なぜこんなにも、不自由な体の人に使い勝手の悪いデザインがされているのだろうか。
街づくりや物のデザイナーが、若い年代層から中年層の手で行われているからではないか」。
「不具合なものを、きょうまで生んできたのは、その道の専門家の「想像力』の欠如ではないか。『優しさ』も『思いやり』も『想像力』である。
最先端の技術以上に、まず心の中に豊かな想像力を育むことが先決ではないか」。
「こんどの体験をしてみて、高齢者にとって外出がいかに冒険であるかを痛感した。恐かったのは微妙な小さな段差だった。都市計画の関係者にこの疑似体験をぜひ薦めたい。新しさを競うあまり、安全性や使いやすさを欠いてきた傾向がある」。
「『ForHim』ではなく、『TogetherwithHim』の心が街づくりにも必要だと思う」。
「街も変わっていくと思うが、高齢者が一歩も出たくなくなるような街には変わって欲しくない」。
「階段の昇降はほとんど拷問に近く、恐怖さえ覚えた」。
「体験中、特に怖かったのは視界の悪さ。ふだんの私の何気ない行動は視力の支えによる自信から来るものなのだと痛感させられた」。
「今度の体験で一番心に残っているのは、ウエルエージング協会の方が『あなたがたは装具を外せるからいいよね」といった言葉だ」。
「控え室に帰ってすぐ重りを脱ぎ捨てたが、その重りを脱ぎ捨てられない高齢者が大勢いるのだと思った」。
「体験を終わって取り外せた重りも、いつかは取り外せない日が来る」。
この彼女たちが、社会への発言力を持つようになる時代、日本はどのように変わっていくか、と楽しみである。
1997年1月20日 岡並木
●あとがき
江戸時代の平均寿命は、30歳代だったという説がある。
敗戦直後の1947年でさえ、日本の平均寿命は、男性50.06歳、女性53.96歳だった。
それがいまは、男性76.36歳、女性82.84歳。
日本人の平均寿命は、この50年間で、30歳近くも伸びてしまった。
この新しい30年という長寿の人生は、日本の社会として、間違いなく初めての経験である。その新しい社会に、私たちとしては、どう向かい合えばいいのか。
ここには歴史の教えるノウハウは、殆どないというべきかも知れない。
そして、私たちの前途には、試行錯誤の道しかないのかも知れない。
その道を探って様々な切り口で調査が行われ、それに基づく具体的な提案がたくさん出てきている。
しかしそれをめぐって侃々誇々の論議が行われているのも現実である。
いまから20年近く前、東京の都心10区から、高齢者の養護施設が消えてしまったことがあった。
都心の土地は、より経済効果の高い施設に活用すべきだという考え方が、支配し始めた頃である。
そして高齢者の養護施設は、どんどん郊外へと追いやられた。
高齢者は自然の中で暮らす方がいいのだという考え方も、それに拍車をかけたのかも知れない。
バブルがはじける少し前だったが、厚生省の高官が、「生活保護を受けながら、地価の高い都心に住んでいることは、許されない」と発言したことさえあった。
しかしいま、都心には再び高齢者の養護施設が、かなり増えてきた。
これも試行錯誤を経た軌道修正と見ることが出来よう。
しかし、阪神大震災の仮設住宅に取り残された資産も職もない高齢者の問題は、まだ全く解決の目途がついていない。
本書の編集にあたって、11人の方が貴重な原稿をお寄せ下さった。
高齢者問題を、「交通」の分野に限っても、これだけの視点、切り口があるのである。
読む方によっては、矛盾し合うと思われるデータや、計画があるかも知れない。
しかし編集に当たった私どもとしては、おひとりおひとりの論文に、深い知恵を感じながら拝見させて頂いた。感謝申し上げます。
岡 並木 |
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