「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が平成13年(2001年)度4月1日より施行された。第1条の目的には「国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事の入札及び契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置及び施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ること」とある。各地方公共団体の現場では法律や適正化指針に基づく改革に取り組んでいることと思われる。
また、すでに地方公共団体においては入札制度の改革への取組みが始められ、一般競争入札、工事希望型指名競争入札、総合評価方式など様々な取組みが行われ、導入を計画している所も増えている。
しかし、これまで長く行われてきた指名競争入札には指名基準の策定・公開や予定価格の公表、談合の排除・防止など、入札手続の透明性および公平性の観点から多くの問題がある。また、小規模の地方公共団体にとっては、不良不適格業者の排除や一般競争入札の導入などの経験と人力も少ない所が多い。公正取引委員会や警察による摘発や検挙が厳しくなっていることもあるが、依然として談合をめぐる事件は後を絶たない現状にある。
判例の傾向としては、談合を放置したことの地方公共団体の責任が問われる判決が出始め、住民訴訟で業者への損害賠償請求も増えている。地方公共団体も損害賠償請求を行うなど、談合があった場合には損害賠償を契約に盛り込む例も出てきている。タックスペイヤー(納税者)の立場にたてば、品質の良いものを安く発注するための策を地方公共団体が講ずることは当然の責務である。財政状況が厳しい中、入札談合を防止するための取組みは首長および担当職員にとって急務である。官製談合はもとより談合問題を放置しておけば、早晩に住民訴訟などで首長や職員が厳しく責任追及されることも予想できる。
入札談合を防ぐことは必ずしも不可能ではない。例えば、指名業者を増やしたり、入札参加業者がお互いにわからなくする、あるいは談合をしにくくしたり混乱させたりするような制度の採用などである。その先進事例として本書では首長や議員、担当職員などが経験を踏まえて詳細に紹介している。
この資料集発刊のきっかけは、数回にわたり開催された地方公共団体職員向けのセミナーである。したがって実務の方を主な対象としたが、首長や議員関係者などに活用されることも可能である。
また内容について、各著者が発刊にあたり加筆・修正、新しい資料の追加など手直しはされた。しかし、講演当時より多少月日が立ち、最新の動向など全てフォローしきれていない点もあることをあらかじめご了解いただきたい。
とはいえ、改革への主要な流れは変わりようがなく、入札制度をめぐる課題の整理と、改革への展望を垣間見ることを期して出版するものである。関係者が発注者としての責任を果し、民間企業の創意工夫も活かすための公正・透明・効率的な入札制度の改革、さらに民間企業の関係者も自ら構造改革を行うことに役立つことができれば望外の喜びである。
編集を終えて最後に、ご覧になる方の案内も兼ねて本書の概要についてご紹介したい。第1編では、最初に弁護士の厚谷襄児氏に、独占禁止法の運用や訴訟との関係を中心に問題提起をいただいた。
次に、中建審、入札契約適正化法の内容、制定や運用のねらい、地方公共団体の実態把握にみる現状と課題として、総務省、建設省(現国土交通省)の担当者に報告いただいた。特に総務省の泉水克規氏には、適正化法と適正化指針の運用をはじめとして大幅な加筆をいただけた。
また、パシフィックコンサルタンツインターナショナルの竹谷公男氏には、入札改革を促す強い誘因となった欧米の動向からみた、わが国の入札のあり方について提案があった。社会風土が違うとはいえ、国際情勢の大きな流れでは談合はほとんど行われないという米国制度に、日本は学ばざるを得ない状況に置かれている。電子調達や契約者と発注者のネゴシエーション、リスク分担等の関係、実績のあるCM方式による入札は別の角度から、入札制度のあり方を見直すための参考となろう。
第2編では、東京都の成田隆一氏に入札制度改革の現状と、新しい試みとしてのCM方式による入札を報告いただいた。
また改革にあたっては、事務処理要綱・要領・格付・指名基準などをいかに作成し、関係者の理解を得るかが重要であることから、広島県で広く関係者に配布されている資料の一部を掲載して解説いただいた。ぜひご活用いただきたい。公正・透明な改革を進めるために広く関係者に公開していく試みに学ぶことは多いのではないだろうか。
また、横須賀市はインターネットや郵便、faxを活用して、談合のしにくい仕組みを作る一方、市内業者の参入機会を増やす等の入札改革を行った。行政の指名権の放棄といった「シンプル・イズ・ベスト」という、制度のわかりやすさと耐えざる見直しが成功した理由でないかと思われる。今までの成果を踏まえ、現在電子入札に移行中である。
さらに鎌倉市では、条件付き一般競争入札、工事希望型指名競争入札の導入、また予定価格の事前公表を試行したが、高止まりにより中止のやむなきに至っている。
一方、座間市の山崎芳広氏は市議会議員として落札率のデータ調査等を行い入札の現状を分析した。談合が行われているか否か判断に迷うことも多いが、落札率を丹念に調査していけば自ずと見えてくることを明らかにしてくれている。情報提供・公開を活用した試みには学ぶことが多く、担当課であれば手元のデータで可能なことではないだろうか。
また首長として、納税者の立場に立ち談合を防止するための試行を様々に行ってきた小淵沢町長の鈴木隆一氏は、「談合が恒常化しているのは、主は役所の責任」という。公共工事と入札制度のあり方をあらためて考え直すことの重要さを報告いただいた。
いずれの取組みからも、国の動きに連動しながら地方分権の中でのしたたかで多様な入札制度改革の試みの実態がうかがえる。
なお、本書から一般論としての改革の処方箋が見えてこないと不満に思われる方がいるであろう。これは各著者の問題意識は一致しているが、解決へのアプローチにかなり違いがあるからである。その「違い」は歴史的経緯や実態に沿った取組み方の反映から生まれたものである、という見方ができる。
最後に、3点ほど問題提起をしたい。一つは、電子入札・調達が今後普及することが予想され、改革のカギとなる制度のように言われている。しかし、電子入札を導入すればよしとするのでなく、本書の取組みのような制度改革を地道に並行して行なわなければいけないであろう。そうでないと改革に有効に働かないという認識が欠かせない。むしろ隠れ蓑になる危険性があると、著者に指摘されたことを付け加えておきたい。
二つ目は、入札に参加する業者数と人口規模との関係である。横須賀の入札改革が成功した背景には、業者数が一定数確保できることで競争性が発揮されたとも言われる。改革を実践するにも、人口規模が小さい小都市や町村部、例えば数千の人口では、業者同士が互いに顔が見え談合を防ぐにも難しい面が常にある。そこで、地域用件の検討や実現は難しいであろうが、試行的に一部の入札で人口40万人規模などの広域の運用による競争的環境づくりも模索されてもいいのでないか。この場合、地域内で相互に入札参加できることも必要である。
三つ目は、制度改革と地域産業育成論の関係である。地方圏、大都市圏の双方で建設産業は雇用や経済の面において高いウェートを占めている。しかし、市民という納税者の立場と、企業の立場の産業育成という視点はある意味で矛盾している。担当も別にした方が望ましいであろうし、現状は産業育成のあり方が問われている。地場産業・地域産業の育成策と入札改革の政策をきちんと分けるなど、両政策の位置づけの検討も迫られている。
苦労が十分予想されるが、首長や議員、担当者により地域の実情に合った方策の開発される事を望みたいし、読者の前向きなご意見やご批判を元にし当会の取組みも期待されるようなものとしたい。なお著者には、多用の中困難なテーマについて、ご報告ならびに執筆を頂けましたことに深く感謝する次第です。