●監修にあたって
わが国自治体の間で、近年、急速な展開をみた「政策評価」への実践的取り組みは、行財政改革のための即効的な政策事業の見直し評価を中心とする第1ステージを経て、その実績・成果を振り返り検証しつつ、より長期的視点に立って新たな課題を見出し展望する第2ステージへの移行が始まり、現在、そのビジョンをめぐる多彩な具体的挑戦が活発に展開されつつある。
本書は、自治体でのこれら取り組みの中でも特に注目を集め多くの期待がかけられている、「総合計画」の管理・評価過程への適用を取り上げ、現時点でわが国自治体が進めつつあるシステム化の実態に則して、この新段階の構想と課題を、多角的な視点から検討を試みようとするものである。
21世紀を迎えて総合計画の全面改訂を行い計画の運用を開始した自治体では、それを契機に計画体系の見直し整備とその評価システムの構築を進めるところが急速に増えてきた。そして、このシステム化を核に行政経営の新たな体系化と総合化を図るとともに、政策評価システムのレベルアップを目指す基本戦略が多くのところで採用され定着しようとしている。
いうまでもなく政策評価は、行政経営システムと一体化した形で機能することが求められ、また反面、行政経営の全体システムは、評価プロセスを媒体として初めてその統合的関係を確保し維持することが可能となる。その意味で、今日みられる新たなステージでの取り組みには、各自治体の経営理念とその運営方針に基づく独自のアプローチが採用され、そこにきわめて多種多様なシステムの形態が出現することになる。その多様性こそが、まさに、ここでのシステム化の基本的かつ本質的な特徴といえるであろう。
本書を監修する直接のきっかけとなったのは、平成14年(2002年)に設立された日本地域政策学会である。この新たに創設された学会の政策評価分科会では、「総合計画と政策評価」をテーマとする事例発表と討論が熱心に行われ、現在、わが国自治体で抱えているさまざまな問題や課題の存在が率直に提示された。本書において取り上げる各自治体の実践事例は、すべてこの学会の場で公表され発表されたもので、今後、わが国自治体での幅広い取り組みと検討を一層喚起するためにも、これらの実績は十分価値ある貴重な素材となり、たたき台になるものと思われる。
本書は、第1編総論編でまず、総合計画の評価システムの基本的体系のあり方とシステム化の方法論について述べ、その実態を全国調査データに基づき検証し解説する。
第2編実践編では、上述した自治体の8つの実践事例が、その開発に携わった担当者により紹介される。わが国で政策評価の先導役を果たした三重県のニューバージョン、それとは異なる方式で県民参加型システムとの統合を意図する滋賀県、県民サービスの提供を意識し独力での開発を進める茨城県、計画と予算の連動の実現化を図る柏崎市、町田市、総合計画体系を評価の視点から統合整備を進める高崎市、豊中市、評価システムを核とする総合マネジメントシステムを提唱し追求する深谷市など、ここではこれまでの経緯やその実態がありのままの姿で報告されている。
第3編手法編では、これらシステム構築にとって基礎となる2つの手法の適用に関する問題を取り上げる。1つは総合計画体系の階層に則した評価結果の統合化の問題であり、もう1つは計画事業と予算事業間の統合的な関連性確保の問題である。いずれも今後、さらに議論を深めて行くべき共通の基本テーマといえる。
本書をまとめるにあたっては、各章担当者の方々に職務多忙の中ご執筆を快くお引受けいただいた。これらの皆様に深く感謝申し上げるとともに、本書がわが国での政策評価の発展充実に少しでも役立ち寄与できることを願うものである。
2003年4月 斎藤達三 (高崎経済大学大学院地域政策研究科教授)
●編集を終えて
日常の業務で接する自治体の担当者とは、総合計画を話題にすることがよくあります。
総合計画に関係する担当者は、計画策定に参画していたことへの誇りや苦心を話します。一方、事業担当セクションにおいては、担当事業を総合計画に組み入れたこと、それに伴って実施計画で予算措置が確保できることを励みにしているようです。その理由を行政マンは、現在の行政では総合計画は絶対的なものであるから、いかにして総合計画に組み込むかは大事なことになると話していました。裏を返すと、事業の実施が先行して総合計画が大義明文化していることの表れとも言えます。
一部の自治体でのこととは思いますが、総合計画を自治体職員のみで策定している場合には起こることが十分考えられます。なぜなら、総合計画の担当者は意欲的に取りくもうとしても、例えば行政サービスの見直し等を伴う場合、その担当セクションへの配慮などから、どうしても一律化や平等化に配慮することになりやすいからです。首長の判断や相当な事由がないと、廃止や併合、縮小といった見直しはしにくい状況にあると考えられます。このことからも時代の要請として、政策評価の導入は不可欠となっているのではないでしょうか。
現在、財政状況の悪化等もあって、外部への委託や検討委員会の設置をすることなく職員のみで総合計画を策定している例をよく耳にします。それが可能となるのは、職員の能力向上のたまものだと思いますが、その反動も考えられます。つまり、日本の人事行政ではゼネラリスト育成に主眼を置いているために、総合計画や、政策評価、また当該事業のスペシャリストが少ないことから、政策課題に対して政策評価としての観点で十分に対応仕切れないことが予想できるからです。その意味では、人事行政の見直しとともに、専門家や市民などの外部の人材活用は欠かせないと考えます。
また、議会の権能への期待にも大きなものがあります。チェック機関から政策立案機関へと変わることでその機能を果たせると思います。たとえ、政策立案は困難としても、総合計画や事業をチェックしたりサポートしたりすることはできるはずです。自治体の職員は3年から5年で担当を変わりますが、議員は最低でも4年、当選を重ねれば8年、12年となるわけですから、ある意味では総合計画や様々な事業のスペシャリストとなることも可能ではないでしょか。行政マンも、議員にそのような能力を期待しているのではないかと思います。政策立案機関と変わっていく中で、議会の活性化とともに、「自治」の方途が開けてくる、そうなることを願っています。
総合計画の政策評価に向けて挑戦する自治体が少しずつ増えていることや、上記のような実情を考えても、最新の取組み事例に学ぶことには大きな意義があると思われます。本書は、監修の斎藤達三氏の長年にわたる総合計画や行政評価への取組みが出発となりましたが、自治体職員自らの先駆的な研究や先進的で多様な取組みを詳細に紹介された本書を刊行できることは、大いなる喜びであり誇りです。
斎藤氏には、企画段階の当初からご指導・ご助力を頂きました。執筆や編集過程においても、ご多用の折にもかかわらずご協力いただきましたことに、本書を借りて厚く御礼申し上げます。執筆者各位には、日常業務でご多忙の中、今までの取組みの成果や課題として掘り下げてきた実務を整理し、力作を提供していただきました。ありがとうございます。本書がこれからの自治体総合計画の道標となり、日本の自治体行政経営に一つの足跡を残すことを祈念しております。
2003年7月17日 地域科学研究会(緑川/松原)
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