2015.12.7 高大接続・大学入試改革の論点整理[Q&A]〜センター試験25年余の検証を踏まえて〜
本論点整理は、高大接続システム改革会議の第8回(11月30日)を踏まえて、(独)大学入試センターの前副所長 試験・研究統括官の荒井克弘氏にQ&A方式で回答いただいたものです。4月16日のKKJ“政策直言”の場のQ&Aも併せて、ご高覧いただけましたら、高大接続と大学入試改革の今日的課題がよりクリアーにご理解できるものと存じます。 “政策直言”の場<6> 入試センター試験と新学力評価テストの検証のポイント いずれにしても、高等学校教育とその質保証・卒業判定に接続した大学入学選考改革が急務となっております。18歳人口の50%超が大学進学するというユニバーサルアクセス期においては、新テストも、高校学習指導要領に対応して、多様な教科・科目の研究開発が求められております。α.基本認識 Q1.三位一体改革の順序性(又は整序) 〜高等教育と大学教育との溝・位相とは〜 A.三位一体改革とは高校教育、大学教育そして両者をつなぐ大学入学者選抜を一体的に改革するという政策スローガンをさす。2012年の中教審「大学教育の質的転換」答申あたりから高大接続改革の基調となった。2014年に公表された中教審高大接続改革答申も、この方針をベースにしている。しかし、高校と大学とはその歴史的な経緯も異なり、教育目的・方法も異なる。両者を結びつける大学入学者選抜も、日本では単に制度的な接続に止まらず、固有な教育的、選抜的なプロセスとしての性格を有する。 いずれの改革も容易ではないが、三者を同時に変えれば改革の実行性が高まるという考えは飛躍である。三者のいずれが欠けても改革が停滞する危険性が高いと考えるのが自然ではないか。高校教育、大学教育の改革を先行させ、その後に両者をつなぐ大学入学者選抜の改革を進めるのが現実的であろう。 Q2.高校の普通教育と専門教育の質保証 〜いわゆる普通高校と職業高校の卒業証書とディプロマ技能資格〜 A:普通教育と職業教育とは異なる目的のもとに発展してきた。近年、大学進学が普及することによって、普通教育卒だけでなく職業教育出身者にも大学進学の機会を与えるべきだという主張が高まり、諸外国ではこの動きを重視している。従来の学力を「資質・能力(コンピテンシ)」という、より抽象的な用語に変えたりしているのもこうした風潮の反映と見られる。イギリスでは、かつてのポリテクが大学に昇格し、職業資格をGCEの成績に読みかえるなどの取り組みも従来から進めている。ドイツも職業資格を進学資格に読み換える制度の構築に余念がない。フランスは普通バカロレアに技術バカロレア、さらに職業バカロレアを加えて、大学進学資格の開放に努めている。日本では、専門学科、総合学科等の卒業者が大学志願する場合、「専門高校・総合学科卒業生入試」を独自に用意する大学・学部もあるが、その数はきわめて少ない。こうした事情もあり、専門高校卒等の受験者の圧倒的多数はAO入試、推薦入試を経て大学に進学している。 Q3.「一般入試」と「AO入試」の差違は 〜大学入学者選抜実施要項の定義から〜 A:かつて入学者選抜方法は一般選抜と特別選抜に分けられていた。そのときにはAO入試は一般選抜に区分されていた。その後、一般入試を「学力選抜」、AO入試、推薦入試を「非学力選抜」と呼ぶ風潮が定着し、現在のようなタイプ分けができあがった。AO入試に学力評価の条件付けを求めるようになったのは、平成23年度大学入学者選抜要項(文部省)からである。推薦入試は「原則として学力検査を免除し、調査書を主な資料として判定する入試方法」と定義されているが、「推薦書・調査書だけでは入学志願者の能力・適性等の判定が困難な場合」は何らかの基礎学力の把握(センター試験の利用等)に努めることが書き足された。 一般入試であっても、学力試験だけでなく面接や小論文を課すところも増えている。一般入試、AO入試、推薦入試はそれぞれ独自な選抜方式であることは変わりないが、いずれも多面的、総合的な選抜方向に向かっていることは確かであろう。選抜方式の境界は以前より曖昧になった。 Q4.学習指導要領とセンター試験の教科・科目の対照 〜現在の6教科30科目は多くない〜 A:結論から言えば、センター試験の6教科30科目(リスニングは英語に含める)は共通試験の出題教科・科目として多いとはいえない。高校教育と大学教育の多様化に対応するにはこの程度の数は必要になる。英国のGCEは100科目余の出題科目が用意されていると聞く。但し、日本の場合は、学習指導要領が変われば、出題教科・科目の内容、教科・科目数などの見直しは避けられない、それが高大接続を担う共通試験の条件でもある。 β.高校教育の改革シナリオ Q1.進学率98%の高校入学者の実相 〜中学校卒業者の学力・知識・態度の判定〜 A:1984年に高校入試から適格者主義が外れ、高校入試の段階で入学者の学力を厳格に吟味するという姿勢が後退した。その点については、高校全入化への対応が遅れていると言わざるを得ない。高校教育改革で重視すべきは、高校教育のスタート時点の学力を知り、高校教育の意義を生徒の一人ひとりに理解を徹底させることである。そのためにも入学者の義務教育の修得レベルを把握することが不可欠である。 Q2.市民教育と職業教育の構造化 〜生涯学習社会での後期中等・高等・リカレント教育の接続〜 A:「市民教育」、「職業教育」の意味するところが広く、回答するのは難しい。キーワードの並びから推測すれば、高等教育についてリカレント的な学習が社会から要請されていることは確かだろう。この「リカレント教育」の仕組みをどのように構築するか、それがきわめて重要である。 Q3.高校教育の自立性の確保 〜大学入試を前提としない教育風土〜 A:大学進学が普及する前は高校教育が「完成教育」だった。大学進学者が増える過程で、進学準備教育と完成教育の間に軋轢が生じた。現在でも職業系の高校では完成教育の色合いが濃く、就職指導、職場人教育にも相当の時間と労力を投入している。しかし他方で、専門高校からも多数の生徒が大学へ進学する傾向は増えている。 γ.新テストのコンセプト Q1.共通学力試験と個別学力試験の役割分担 〜選抜性の高い大学/中低位の大学〜 A:大学教育の多様化に対応するには、共通試験と個別試験の適切な分担が大切である。それなくしては評価の信頼性も生まれない。新提案ではことさら共通試験に過重な負担を強いる傾向が見られるが、大規模試験を改革するには、コスト・効率性・効果のいずれの観点から見ても妥当と思える目安が必要である。入学者選抜の主体は大学であり、最終的には、大学が説明責任を果たせる実行性のある提案に練りあげていく必要がある。 Q2.高校の新学習指導要領に対応したセンター試験改革 〜教科・科目の新編成〜 A:学習指導要領にもとづいて高校、大学、大学入試センターの間で出題教科・科目の調整をしていくことになる。このプロセスを慎重に行なわないと、高校、大学の間に混乱が生じる。 Q3.「思考力」を問うセンター試験問題の実践 〜マークシート方式における工夫例〜 A:大学入試センター試験が知識・技能のみならず、思考力、理解力、活用力を測定するために尽力してきたことはもっと知られて良い。しかし、思考力、活用力の測定に比重を置きすぎると、試験の難度はあがる。信頼性、妥当性の高い大規模試験を実現するには、このバランスが重要な判断となる。 Q4.「合教科・科目型」試験の有効性 A:現状では出題は難しい。学習指導要領の教科・科目編成が大幅に変わり、教科・科目としての体系化が整えば、出題も可能になる。ただし、大学教育と高校教育を接続させるという大前提の条件が満たされていなくてはならない。机上の空論では済まない。 Q5.「総合型」試験の有効性 A:大学の個別試験として実施する分には問題はない。だが共通試験として実施すれば、その抽象度の高さ故に、高校以下の教育に大きな混乱を及ぼすことになる。日本の高校には全国的な標準教育課程があり、大学進学が普及すればするほど、標準教育課程の意義は大きくなる。進学基準となる学習目標は明確であることが望ましい。諸外国では、到達度試験が実施できないために、いわば次善の策として総合型試験が用いられていること知っておく必要がある。 Q6.CBT、IRT利用試験の要件 A:学力調査に利用するのであれば、可能性はあるが、入試に使うには巨額の経費と長期の準備期間が要る。とくにセンター試験のような数十万人レベルの大規模テストに導入するのは社会の側の受け入れから、トラブルの処理まで、多くの課題を一つひとつ慎重にクリアしていかなければならない。制度的、技術的、コスト的なハードルは相当に高いと考えなければならない。 Q7.個別大学の入学選抜・選考の今後 〜大学・学部のアドミッションポリシーの具体化と実現〜 A:今後、さらに多様化が進むと予想される。その意味で、共通試験と個別試験の組み合わせ、その選抜基準の設定をどのように考えるか、それが大学・学部ごとに問われるだろう。大学、学部によって民間の資格試験を利用するところがでてこようが、 これらについても公平性、公正性について十分なチェックが必要になる。 以上 |