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新刊『青い眼が見た幕末・明治』の解題          
〜12人の日本見聞記を読む〜


緒 方 修
東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター長




 この3年間で幕末・明治関連の本200冊ほどに目を通した。
 特に外国人の眼から見たらどう見えるか。琉球に寄港した青い眼の記録は文庫本で読める。『朝鮮・琉球航海記』(ベイジル・ホール−岩波文庫)、『幕末日本交流記』(フォルカードー中公文庫)、『ペリー提督日本遠征記』(岩波文庫4冊)、『ゴンチャローフ日本航海記』(講談社学術文庫)。この4冊でイギリス、フランス、アメリカ、ロシア側からの視点がわかる。

 彼らはまず中国へ寄り、その後琉球へ来た。中国は雑然として不潔、役人も人々も外国人を敵視している。日本は整然として清潔、役人は不親切だが庶民は好奇心と親切心にあふれている、という印象だった。
 典型は英国のベイジル・ホールだ。中国に使節を送り届けた後、時間の余裕が出来た。そこで40日間の朝鮮・琉球への航海に出かけた。琉球をパラダイスのように描き、ヨーロッパに紹介した。イギリスに帰航の途中、セントヘレナ島でナポレオンに会い、武器のない島・琉球を紹介した。ナポレオンは武器がなくてどうやって国を守ることが出来るのか? 冗談はやめてほしい、と答えた。
 ホールの著書はベストセラーとなり、米の南北戦争後の平和志向にも影響を与えた、という。

 2017年に上梓した前著『青い眼の琉球往来』(芙蓉書房出版)で、明治の琉球処分までを概観した。
 その後、琉球は国際舞台から引きずり降ろされた感がある。日本の植民地のような島に用はない、とばかり青い眼は琉球を見捨て、江戸をめざす。

 新刊の『青い眼の見た幕末・明治』(芙蓉書房出版)では、「普請中」(森鴎外)の日本国家について彼らが書き残した航海記や日記を読み解いた。
 嘉永6(1853)年に着いたゴンチャローフ(ロシア)、安政3(1856)年のハリス(アメリカ)、通訳のヒュースケン(オランダ人)、安政6(1859)年のオールコック(イギリス)から明治9(1876)年に赴任したベルツ(ドイツ)、明治11(1878)年に来日し、東北を旅行したバードまでの12人の手記だ。

 ゴンチャローフはペリーと同時期に江戸ではなくまず長崎に寄港した。最後のバードの来日は西南戦争終了直後だ。
 何百年に一度の大動乱期を彼らは、ある時は当事者として命がけで生き抜いた。アーネスト・サトウは英国の国策を代弁する人物として尊重された。志士たちと交わり倒幕派の薩摩・長州に肩入れした。生命の危機にも直面している。着任の6年前にはアメリカ領事館のハリスの補佐・通訳ヒュースケンが暗殺された。勤務地である英国公使館は着任の前年に水戸浪士に襲撃されている。

 マウンジーはイギリス公使館書記の立場を利用し豊富な資料を基に『薩摩反乱記』を表している。
 イタリア人のアルミニヨン、デンマーク人のスエンソン、イギリスのブラントン、ロシア人のメーチニコフの見聞記も入れた。イタリアは蚕の買い付け、デンマークは通信事業開始が目的だった。イギリス人のお雇い外人ブラントンは灯台の父と呼ばれている。

 ロシアからは本物の革命家メーチニコフがやってきた。いまの東京外国語大学の先生を務めた。二葉亭四迷は教え子だ。チェ・ゲバラをスペイン語の、イランの革命派をペルシャ語の教授に招聘するようなものだ。
 日本はかつて亡命中の孫文を受け入れた。今なら香港の民主派のリーダーの周庭さんを、大学の講師として面倒を見る。それくらいの度量がなければアジアと将来友好的に生きて行くことは難しい。

 幕末・明治を生きた人々に比べて現在の日本人はすっかりスカ(菅?)タンに堕してしまっているようだ。明治10(1877)年の西南戦争の敗北以来、日本から健全な野党が存在しなくなったのではないか、と司馬遼太郎、江藤淳などが指摘している。
 幕末・明治の超大国はイギリスだ。実情を知るためにエンゲルスの『イギリスにおける労働者階級の状態』、ディッケンズの『二都物語』、『興亡の世界史・大英帝国の経験』などを紹介した。いま悲惨な労働者はいなくなったが、中東、アフリカでは難民や餓死者が絶えない。
 150年前と比べて世界は平和になったのか。武器の発達と経済の格差拡大、国家エゴイズムの蔓延のせいで犠牲者は余計に増えているようだ。

□『青い眼が見た幕末・明治』 2020年6月 芙蓉書房出版
http://www.fuyoshobo.co.jp/book/b512052.html

□『青い眼の琉球往来』 2017年10月 芙蓉書房出版
http://www.fuyoshobo.co.jp/book/b313434.html

□著者プロフィール□
緒方 修(おがた おさむ)
 1946年生。中央大学卒、文化放送記者・プロデューサーを経て1999年より沖縄大学教授・地域研究所所長。早稲田大学オープン教育センター講師など。現在、東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター長、NPOアジアクラブ理事長ほか。 著書は、『青い眼の琉球往来』『シルクロードの未知国―トルクメニスタン最新事情』(以上、芙蓉書房出版)、『客家見聞録』『燦々オキナワ』(以上、現代書館)、『沖縄野菜健康法』(実業の日本社)、『歩きはじめた沖縄』(花伝社)など。

2020年9月16日



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