◆どんな逆境に遭遇しても、ブレない投資方針、強固な投資方針はどこから来る?
前回コラムは、更にもう一段の価格下落に耐えられるかというテーマでお話しした。今般の価格下落(株安、円高など)への対応と備えについては、事例でご紹介した3法人では三者三様、全く異なるものであった。更にもう一段の価格下落への準備も出来ている法人も有れば、そうでない法人もある。勿論、それぞれの法人の運用内容の違いもあるが、その背景としてのブレない投資方針、強固な投資方針の有無の問題ではないかと考える。
今回は、ブレない投資方針、強固な投資方針とは何で、どこに由来するものであるのかについて、更に考察してみたい。運用環境が良い時も、また最悪の逆境の時も、常に一貫して、組織としての資産運用管理を整然と続けてゆく為には不可欠なバックボーンであろう。
◆資産運用管理を整然と続けてゆく為の取り組み姿勢
簡単に言えば、常に謙虚な姿勢で取り組むということに尽きる。つまり、@何が起こるかは絶対にわからないということ、A自分は上手く運用できると絶対に過信しないこと、自分が資産運用の素人だと思っている場合は、専門家と考えられている第三者であっても、その人の能力さえ過信しないということである。
地震や自然(災害)などにおいては、誰も、いつ、どこで、何が起こるかは絶対にわからないし、予め知り得えることは不可能である。これは素人である一般庶民は勿論、高名で権威が有ると見なされている地震学者や研究者の地震予知などについても、それが常にズバリ的中することは殆ど無ない。更に、一旦、地震や自然(災害)が起きてしまうと我々の意識、情けとは全く無関係にとても非情、冷徹な結果を引き起こす。地震や自然(災害)の被害から自分の身を守るには、常日頃から備えをしておく以外には、素人であろうが、専門家であろうが、出来ることは何もないのである。
資産運用の世界で常に繰り返し起こっている事象も、実は地震や自然(災害)の分野についてのこのような我々の見識が殆どそのまま当てはまる。いつ、どの銘柄、市場に何が起こるか(投資が成功するか、あるいはデフォルトするか、大暴落するかなど)は絶対にわからないのである。また、それらについて洞察する能力も、自分の資産運用の腕に自信が有ろうが無かろうが、更にそれがアナリストやエコノミスト、大手金融機関や格付け会社、評論家、彼らを取り上げたニュース、新聞などのメディアの言うことであろうが、地震予知程度の価値しかないと思った方が良い。参考意見の一つにするのは構わないが、それらに資産運用の成果を依存、重ね合わせて行動してしまうのは軽率であり、賢明とはいえない。
そして資産運用の世界も平時は良いが、非常時は突然訪れる。デフォルトや大暴落は冷徹、無慈悲な動きで、一投資家の心情や都合を全く顧みない、コントロールの及ばない世界である。平時に自己責任という言葉を頭で理解することは簡単かもしれないが、実際に損を被ってしまったらそれまでであり、誰にも助けを求めること出来ないという厳しい世界なのである。
こうなった時に初めて、投資家は自分の能力に過信していて、自分にはさほどの能力がそもそも無かった事に気が付く。また、投資判断の根拠とした金融機関の助言、信用格付け、他専門家やメディアの見通しは絶対的なものではなく、しかもコロコロと言うことが変わるあてにならないものであるということに気が付く。
結局、地震や自然(災害)に対する防災、減災の取組みと同様、投資家が事前に出来る最善の対応は、金融危機など資産運用の非常時を常に想定して、可能な限りその時のダメージを小さくするよう平時の資産運用から備えておくことぐらいしかないのである。そして、これが唯一最も現実的かつ賢明な考え方なのである。何が起こるかわからないのであれば、何が起こっても慌てなくて済むよう平素から準備しておく。自分の投資判断や専門家・メディアの情報でさえ絶対的な基準とすることができないのであれば、それらよりも信頼に値する資産運用の基準を持てばよいのである。
◆ブレない投資方針、強固な投資方針を背景とする具体的な事例
何が起こるかわからないのであれば、何が起こっても慌てなくて済むよう平素から準備しておく。自分の投資判断や専門家・メディアの情報でさえ絶対的な基準とすることができないのであれば、それらよりも信頼に値する資産運用の基準を持てばよいのである。このようなブレない投資方針、強固な投資方針の背景は、この連載コラムの第1回目から紹介してきた全ての事例と関連しているのである。
すなわち、何が起こっても慌てなくて済むよう平素から運用内容を可能な限り分散投資(運用対象をグローバルに銘柄分散、通貨分散、地理的分散)して、非常時におけるダメージを小さくする、あるいは回復の見込みが不確かな致命的なダメージに陥ってしまうことを回避しておく。また、運用内容を可能な限り分散投資(運用対象をグローバルに銘柄分散、通貨分散、地理的分散)することは、資産運用の収益・リスク特性を債券市場、株式市場、日本経済全体、更に世界経済全体に近似させてゆくことでもある。個別銘柄、企業、発行体を超越した経済、市場全体に資産運用の特性と長期的な効果を重ねた方が、自分の投資判断や専門家・メディアの情報よりも普遍的かつ、より信頼に値する運用基準とは言えないだろうか。経済、市場全体から生み出し続けられる平均的な利子利回り、配当利回りと経済、市場全体の持久性、永続性、復元力、発展力を源泉とした運用元本の長期的な保全という考え方がその背景なのである。
第2回目のコラムで紹介した事例、債券運用は日本国債等を中心とし、社債、銀行劣後債の類は自制、仕組債・仕組み預金の類においては運用禁止・停止しているのは、債券市場全体にリスク分散する運用とは相いれない個別銘柄運用、「◎◎発行債を額面××億円というスタイルで円建て債券を取得し、それらの債券は満期償還まで保有し、債券利子を受け取りつつ最後に償還金で回収する」という債券運用においては、考えられる中では最もマシという次善策なのである。
更に、第5回目のコラムの為替ヘッジ付き外債(海外発行体の投資適格債)投信は、既に運用収益とは呼べなくなった債券運用の収益の代替策としての意味合いもあるが、もう一つ、債券運用における地震や非常時と例えることが出来るアベノミクスの失敗、本邦財政再建計画の失敗のリスクの『防災』『減災』の対策としての意味合いもある。政策の失敗に賭ける訳では決してないし、今のところ顕在化する兆しも無いが、予めこのようなリスク分散を行っておくことで現実的な事前準備の一つとなり得る可能性について紹介したのである。
また、第3回目のコラムの世界の債券指数、不動産(REIT)指数、株価指数などに連動するように作られている運用コストの廉価なETF(上場投資信託)を用いて世界経済を模倣したポートフォリオを構築、市場平均並みの安定収益(国債等の債券利息の補完)と最終的な元本保全を狙うという事例も、分散投資と経済・市場全体を資産方針の背景としている。何が起こるか全くわからない資産運用の中で、特に個別銘柄の不確実性(運用収益と元本保全の不確実性)に依存することを避けるものである。
第4回目のコラムの日本国債等(為替ヘッジ外債投信も含む)とETF(上場投資信託)などを組み合わせたポートフォリオでの、資産配分比率を定め、それを基準にしてオペレーション、リスク管理を行う事例も背景にあるのは投資の分散によって不確実性を極力排除しようとものである。日本国債等(為替ヘッジ外債投信も含む)の保有比率を多くしたりすることを、予め投資政策として決定しておけば、万が一、金融危機時などに見舞われても過大な価格下落に陥ってしまう芽を摘んでおくことが出来る。いつ訪れるか判らない非常時でもうろたえない為の有効な『減災』策である。また、債券、不動産、株式など各資産の保有比率目安も予め決定しておき、その比率を維持するようにオペレーション、リスク管理することは、法人組織としての運用管理の一貫性を醸成することにも繋がる。更に属人的な相場観による運用や判断ミスあるいは不透明な意思決定プロセスに陥ることの回避に繋がり、組織の資産運用ガバナンスの向上にも寄与する。市場価格は誰も予測、コントロールできないが、資産配分比率は誰でも予めコントロールできるのである。
◆全くもって不確実な資産運用の世界で、いかに賢明に振る舞うかということ
いかがであろう。これまでご紹介してきたコラムの事例が全て、@何が起こるかは絶対にわからないということ、A自分は上手く運用できると絶対に過信しないこと、自分が資産運用の素人だと思っている場合は、専門家と考えられている第三者であっても、その人の能力さえ過信しないという前提で資産運用をどう考えるかということと結びついていたということがご理解いただけたのではないだろうか。
誰も判り得ないからこそ、予め投資を分散しておく。本来信用できる確たる情報も能力も誰も持っていないからこそ、予め投資の内容・特性を経済、市場全体の特性と長期的な効果に重ねておくのである。
以上
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