私論公論トップページへ戻る (2013.7.2)
現在進行形の資金運用管理は、 リーマンショック並みの危機の再来にも耐えられるか(その2)
梅 本 洋 一
インディペンデント・フィデュシャリー(株)
法人資産運用管理コンサルタント
◆前回コラム『現在進行形の資金運用管理は、リーマンショック並みの危機の再来にも耐えられるか』(その1)の要旨
4月のコラムでは、大学資産運用に対して以下のような警鐘を鳴らした。
<アベノミクスで再び始まった大学資産運用の「綱渡り」>
・円安、株高の進行
↓
・いつかと同じリスクを取り始めた大学資産運用
「〇〇電機などのクレジットリンク債で通常の社債以上のインカム収入を狙っています」
「3〜5年満期の日経平均株価リンク債=期待インカム利回り3%を取得してみました」
「2年以内満期の既発仕組債を証券会社からオファーがあったので買いました」
「最近再び仕組債(クレジット、株価、為替などのデリバティブを参照することでインカムが決定する債券)を取得する割合が増えてきたのには釈然としていませんが、運用担当としては仕組債を現在無視しては運用にならないので、やむを得ず、取得し始めています」
等々の大学資産運用担当者の声が聞こえ始めた。
<このような運用はいつか来た道ではないのか>
その資産運用のやり方は、為替や株式市場の好環境の間に少しでも高い利回りを稼ごうとしたリーマンショック前の運用と何も変わらないのではないか。いつか、過去と同じ過ちを繰り返す可能性が高いと危惧せざるを得ない。
◆貴学はリーマンショックの二の轍を踏もうとしてはいないか
5月以降の金融市場の反転(円高、株安など)は、大学資金運用担当者、関係役員が冷静さを少し取り戻す良い機会だと思っている。
もしも、春先の調子で円安、株高が現在まで続いていれば、遅れまいと動き出す大学も少なくなかったことである。
しかしながら、大学が資産運用に乗り出す前に、絶対に肝に銘じておいて頂きたいことが二つある。
第一に、多くの大学資金運用担当者、関係役員は資産運用の専門家ではない。ほとんど専門家でない人間が、大学の資産運用の意思決定をしているという現実を真摯に受け止める必要がある。
例えば、専門家でない人間は、為替や株式などの金融市場の好調が長く続けば続くほど、徐々に、あいまいな根拠からの楽観的な相場観、願望に基づいて意思決定するようになる。
「もっと円安、株高は続く、〇〇ならデフォルトしないだろう、△△円までは円高、株安にはならないだろう」、「市場が反転するとしてもその前に投資を引き上げれば良い」、あるいは、「このような甘言で金融商品を売り込む金融機関を専門家と信じ込んで、それに依存する」。
その結果、たまたま運用益が上がっている間は、それを大学資金運用担当者、関係役員、あるいは取引金融機関の能力と勘違いするのだ。
そして、いつか市場が急転したとき初めて目が覚めるということの繰り返しなのである。
第二に、為替、株価、クレジットなど個々の要素について意思決定する必要のある資産運用を大学資金運用担当者、関係役員のレベルで行うのは、そもそも自ら「間違いの種」を蒔いているようなものだと気付く必要がある。
つまり、為替、株価、クレジットなど個々の要素について、分析、意思決定し、資産運用するのはプロのファンドマネージャーの仕事の領域である。
しかも、数多のファンドマネージャーのうちでも、優秀な運用成績を上げ続けるのは、ほんの一握りという統計もある。
すなわち、大学資金運用担当者、関係役員が取引金融機関と相談しながら行う資産運用のレベルで、もっと円安、株高は続く、〇〇ならデフォルトしないだろう、△△円までは円高、株安にはならないだろう、市場が反転するとしてもその前に投資を引き上げれば良いなどと考えるのは、非常に甘い想定に頼った危険な資産運用なのである。
本来、このような「クレジットリンク債」「日経平均株価リンク債」「既発仕組債」「仕組債」の意思決定は全て、為替、株価、クレジットなど個別の要素について判断を下すファンドマネージャーの業務であり、しかも、ほんの一握りの優秀なファンドマネージャーだけが生き残れる世界である。
大学資金運用担当者、関係役員レベルで、今後関わり続けるべきでない領域なのだ。
そして、このように専門家でない大学資金運用担当者、関係役員が、為替、株価、クレジットなど個々の要素について分析、意思決定して資産運用を続ける限り、取り返しのつかないような運用の失敗が繰り返される可能性は高いと断言できるのだ。
◆リーマンショック並みの危機への対処等とは
(1)専門家でない大学資金運用担当者、関係役員という現実に対処しつつ、
(2)為替、株価、クレジット個々の要素について、分析、意思決定することを(極力)避けて、資産運用を管理、監督するためには、どのようにすれば良いか?
大学資産運用がリーマンショック以降の二の轍を踏まない為にも、今後真摯に取り組むべき大命題ではないだろうか。
いかなる環境においても、継続的かつ安定的な“政策ポートフォリオ”による資産運用こそ、王道・大原則といえよう。
<以上>
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