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緊急提言―朝日新聞×河合塾の共同調査についての“異議あり”



青野友太郎
高等教育情報センター(KKJ)


 現在、全国の各大学におかれましては、朝日新聞×河合塾の「ひらく 日本の大学」共同調査への回答につき、思案中の各位も多かろうかと拝します。

 4月中旬に、大阪のある大学の事務局長氏からTELが入り「この調査について、どう青野は考えるのか」との問い合わせでした。そして「朝日新聞紙上でどのような様式で公表するのか」「ランキング化する、しないのか」の説明がない。「しかし、朝日の調査に対応しない訳にもいかないし・・・」との弁でした。

 早速、依頼文及び調査票を入手しましたが、とにかく“ひどい”もので、天下の朝日新聞の「報道局長と社長の見識」が問われる内容です。まずは、一教育関連企業(学校法人とは言え)である河合塾と何故に共同しなくてはいけないのか。本調査で入手した情報を河合塾が営業用に使用した場合、朝日はどう釈明できるでしょう。

 朝日と河合塾の双方が聞きたいことを並べただけで、日本の高等教育の前進につながるような、哲学も高志もないものと評価いたします。しかも、年2回実施し、6月下旬に第二陣のアンケートを送付するとのこと。この大震災後の各大学の現場の状況への配慮もありません。

 以上、いささか独断的に言及してきましたが、当調査の「依頼文」「調査票」をご覧になっていない各位は、貴大学の「各大学学長をはじめ関係者の皆さま」宛となっておりますので、ご確認願います。

 なお、当調査票等は、私大協・私大連・公大協・国大協等の大学団体、大学基準協会・学位授与機構の認証団体、及び若干のコアパースン氏にもKKJから送信しております。若干のコメントはいただいておりますが、団体等の立場では、意見表明はできないため、フリーな立場であるKKJ・青野が個人の立場で、以下、提言いたします。

 結論としては、当調査に関しては、「協力せずという選択」をお勧めする次第です。その理由については、下記に記しますので、ご参考いただけましたら幸いです。また、当問題については、今後の“高等教育データベース”の有り様にも係わる重要事案であり、キーパースン各位の論考をKKJの『私論公論の“場”』まで、寄稿願います。特に、「マスメディア」「社会調査」に係る専門家からのコメントもお待ち致します。

A.調査主体について
 1.朝日の「報道局」「社長室教育事業センター」及び河合塾の「教育研究開発本部」の3部門からの「ご協力のお願い」となっているが、各代表者の氏名が記載されていない。
 2.連絡先についても、担当者の氏名を明記していない。
 3.マスメディアである朝日には、高等教育を担当する記者・編集委員・論説委員諸氏や社会調査に係る専門スタッフがおられると思うが、当調査において、いかなるチーム編成がなされ、設問・分析・評価を実施するのかが見えない。
 4.報道機関である朝日が、当調査にあたって、何故に河合塾と共同で実施するのかについての“社会的説明”が不明である。

B.調査結果の利用
 1.当調査の「使用範囲」として、1つ目として「朝日新聞紙面やアサヒ・コムで報道」及び2つ目として「河合塾内での進路指導、河合塾主催の高校教員対象の研究会、河合塾ウエブサイト、河合塾発行の情報誌で紹介」の2項目が明示されている。
 2.朝日新聞の本紙全国版での“報道”がどのような集計スタイルで公表されるのか、大学名がどこで表記されるかが気になるところであり、特にランキング的な表示をするのか、しないのかの事前の表明は必須ではないか。
 3.2つ目の河合塾の使用内容をみると、あまりにも特定かつ狭い範囲での“紹介”としかいえない。
 4.「一般、大学関係者、高校関係者などを対象としたシンポジウムやセミナーを開催」及び「出版物やCD-ROM、データベースなど、各種2次利用」については「場合」があるとしている。
 5.「その他」において、「本調査にご協力頂いた場合」は、「後日、報告書等をお送りする予定です」と記している。何故に「予定」でしかないのか。“公器”としての自負ある調査ならば、第一回調査報告書については、全大学に送付するぐらいの使命感が欲しい。

C.調査の対象・目的
 1.対象として、通信制のみを除く、「4年制の大学」及び「その学部・学科」まで細かく拡げているが、集計・分析・報告段階で有効な活用と公表をなしうるか。
 2.目的として、「受験生が大学を選択する際や受験指導等に役立つ新たな視点を提供」「大学の現状を客観的に読み解く幅広いデータを分析し提供」及び「業界関係者や一般の方々がデータを比較検討できる情報を提供」等の3項目をあげている。
 3.確かに、「受験指導等に役立つ」は除いて、上記の諸機能を有する大学情報のデータベースづくりは必要ではありますが、マスメディアの朝日新聞の事業としてふさわしいかは熟考すべきかと考える。
 4.マスコミ報道の真価は、記者諸公の鋭敏かつ地道な取材活動の積み上げと、編集・論説委員の見識ある論評・社説にある。昨年来の「教育情報公表」や「大学データベース」に係る政策や「学校法人の事業報告書の在り方」の論議について、マスコミ報道が未だ不足している事柄は余りにも多い。
 5.朝日の報道局と社長室の“木鐸”機能に期待するとすれば、例えば、「大学情報公表研究委員会」を設置し、
   (1)文科省や私学事業団の諸調査における個別事例の公表化、(2)文科省の学校基本調査『高等教育機関』版の改訂、(3)韓国の「大学情報公示制」を参考にした日本版「大学データベース」、等の提言といった社会性のある活動に努めてもらいたいものである。

D.調査の項目
 1.第1次調査の「主な質問内容」は「1.大学の運営・経営について/就職活動に関するご意見」(P2〜5)の前者A〜H、後者I〜Kの11項目から始まり、「11」まで多岐にわたっている。
 2.イントロの質問Aは、7つの機能別分化について、全体を100%として各比重をパーセント(数字)で聞いている。そんなことを100%のウエイトで考えたことありますか。その数字とそれらの集計・分析にいかなる意味があるか。
 3.Bは「理事数」について、常勤・非常勤の別とともに、「中央官庁での勤務経験者」を聞いている。「理事」については「全理事の氏名の公表」や「各理事の主なプロフィールの公表」を聞くべきこと。また、「監事」についても同様に欲しいところ。
 4.Cで、学部・学科の新増設・定員施策、Dで、共同教育課程の実施予定、Eで、他の大学との統合計画、Fで、キャンパスの再編・新設の予定、Gで、附属(系列)の小・中・高校の設置・廃止の予定を聞いている。いずれも、時期・内容について、フリーアンサーでの回答も求めている。このような経営情報について、営業データとして流用されない保証はないと心配となる。
 5.「学士課程」と「大学院」を同一の調査の中で聞くのは、“アレもコレも”ではないか。
 6.以下、各質問項目の評価等については、今後、キーパースン各位からの“私論公論”の論考の中で言及されることになろう。

 以上、いささか性急に論を展じておりますが、当調査の回答しめ切りが6月3日ということであり、各大学におかれての判断材料として、本「緊急提言」を送信する次第です。KKJ5,000人高等教育キーパースンネットにおける「私論公論の“場”」においてさらなる深化した議論が交換されることを念じております。                       以上

 (2011年 5月23日) --------------------------------------------------------------------------------------------------------

朝日新聞×河合塾の共同調査をめぐって―その1

□ 共同調査への不安と疑問   □ 「朝日」調査への批判   □ 協力できない旨を電話にて直接伝えた


◆ 共同調査への不安と疑問 ◆
O大学 K(事務局長)

1.全体について
 ・OUTPUTが具体的に示されていないので、ランキングにするのかしないのか等? 非常に不安です。
 ・使用目的が明確ではなく、朝日新聞がなぜ受験産業である河合塾1社と組んで行う理由が不明確と考えます。
 ・中教審の答申に対する履行状況調査であれば、文部科学省がすべきでありますし、HPなどで情報公開されているはずですので、各大学に調査を依頼する必要はないと思います。
2.大学運営について
 ・C、E、F、Gの質問については、ステークホルダーへの説明が先になされるものと考えますので、構想段階でアンケートに答えられるものではないと考えます。
 ・河合塾の学生指導の基礎にされるのでしょうか? と疑いたくなります。
3.学部の学生数について
 ・退学者等に対する対応状況を調査すべきではないのかと思います。
  数字の把握だけですと(たぶん一身上の理由が多く)単に人数だけの比較に陥りやすいと考えられます。


◆「朝日」調査への批判 ◆
A大学 大庭 毅(理事)

1.大学に対して文科省を始めとした官公庁その他から様々な調査が集中する時期に、このような複雑な調査を押し付けるのは不見識。それも2回に分けて行うとは良識を疑う。
2.偏差値やランキングによらない大学評価の在り方を模索して実施している読売新聞の「大学の実力」調査に対抗する意図があるのだろうが、目的が極めて一般的で、読売新聞の取組との違いや特色がまったくわからない。
3.朝日新聞のような大新聞社から依頼があれば、大学としては表立って批判がしにくいし、調査を提出しないという行動も取りにくい。併せて、河合塾という大手受験産業が後ろ盾となっていれば、その傾向は一層強まる。いわば、大学に対して有無を言わせずに調査に協力させようという意図が見える。
4.読売新聞の「大学の実力」調査は、担当者が誰で、調査の企画・分析はどういうメンバーで行われているか公開されている。朝日新聞の今回の調査は、担当部局は書かれているものの、「誰」が担当しているのか、どういうメンバーが調査を作成し分析するのか、全然「顔」が見えない。大学の良いところも欠点も明らかにさせようとするのであるから、調査する側の「顔」は公開すべきであろう。自分たちは組織のお面を被っていて、相手に対してすべてさらけ出せというのは、強者のおごり以外の何物でもない。
5.朝日新聞は「大学ランキング」の功罪についての総括をすべきであろう。今回の調査が改めて大学間競争を煽るためのものなのか、あるいはそうではないのか見極めるためにも必要であろう。
6.「大学の実力」は、定量的なデータだけでなく、おもわしくないデータであっても、大学としての改善・改革の取り組みを紹介したり、孤軍奮闘している教職員の取り組みを紹介している。そのように、困難な中でも努力し、成果を上げている教職員を励ますようなことがされるのであろうか。
7.調査内容について
 1)設問TのA
   いきなり考え込んでしまうような設問は不適切である。設問の意図もわからない。
 2)設問TのB
   意味不明の設問である。天下りの数を聞いてどうしようとするのか。
 3)設問TのC
   これもまた何のために聞いているかわからない。
 4)設問TのD〜G
   このような取組を検討している大学はそれほど多くない。レアケースでさえある。これまた設問の意図がわからない。
 5)設問TのH
   学費改定について、この時期に予定を公表することはほとんどあり得ない。この時期の質問として無意味。
 6)設問TのI・J
   この設問は大学としての取組でなく、企業に対する要望となっている。調査全体の中での意図がまったくわからない。
 7)設問UのA
   この設問に回答させてどのように評価しようとするのか。
 8)設問UのC
   学部・学科ごとに記入させて、どのように活用しようとするのか。
 9)設問V
   ほとんど「大学の実力」と同じ調査である。これをどう活用しようとするのか。
10)設問W
   学募の学費等についての設問ということだが、内容は奨学金となっている。
   この設問結果の活用はどのようにしようとしているのか。
11)設問X〜Z
   ほとんど「大学の実力」と同じ調査。どう活用するつもりか。
12)設問[
   どのように活用するのか不明だが、学校基本調査と同じ様式ならば、そのコピーでよいのではないか。
13)設問\
   調査の対象をどこまで広げるつもりなのか、何のために大学院の状況まで加えるのか、まったくわからない。
   本調査の意義自体に改めて疑問を持つことになる。


◆ 協力できない旨を電話にて直接伝えた ◆
M大学 K(事務局長)
私どもの結論は、アンケート回答には協力できない旨を東京本社に、私が直接電話して伝えました。
相手が天下の朝日新聞故に、いささかの恐怖心に似た感情を覚えながらも、概ね下記のような理由で断りました。

 ・零細規模の少人数職員の大学では経常業務さえゆとりがないこと。
 ・同様のアンケートが、毎年多くの進学雑誌の会社、他から求められ辟易していること。
 ・アンケートの回答の活用方法が見えない・・・零細大学に不利な公表になることを懸念したこと。
 ・アンケートの回答を求める内容について、文部科学省の学校基本調査と重複する部分がかなりあること

  以上のようなことを述べて回答を断りました。
(・・・マスコミの合法的な報復措置をおそれながらも・・・)
いずれにせよ、今般のアンケートに関し問題視されている方が、おられることについて、心強く感じました。
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投稿をお待ちしております。
大学名及びお名前はイニシャルまたはペンネームをお使い下さい。

(2011年5月24日) ------------------------------------------------------------------------------------------

朝日新聞×河合塾の共同調査をめぐって―その2

□ 記者が多角的に取材すべきもの   □ 調査公害   □ 配慮のない、傲慢な調査だけど・・・


◆ 記者が多角的に取材すべきもの ◆
教育ジャーナリスト 矢倉 久泰

 調査の目的として「大学の全体像と特徴」や「大学の比較と大学選択の情報提供」を挙げているが、第1次調査票を見る限り、膨大な質問量の割にはデータ中心で内容がお粗末。この調査では、大学の全体像や特徴などが、さっぱり分からない。
 調査の目的からすれば、どういう人間を育てようとしているのか、どのような教育に力を入れているのか、特色あるカリキュラムは何か、どのような教養教育・専門教育を行っているのかなど、教育の特色を浮き彫りにする質問が必要ではないか。
 もっとも、そういう本質的な調査は、予備校と組んで行う安易なアンケート調査(ほとんど大学のホームページで分かる)ではなく、記者が大学を訪問して多角的に取材すべきものである。


◆ 調査公害 ◆
Y大学 I(専門職)

 実は、地域科学研究会のメールニュースで今回の調査が行われている事を知り、青野さんより転送して頂いたファイルにて、初めてその内容を目にした次第です。
 入試広報を担当している部署にいるので、入学者選抜に関わる内容を含む調査であれば必ず回ってくるはずなのですが、こうした外部からの包括的な調査の窓口になっている部署に訪ねてみても、記憶に無いとのこと。ちょっと不思議な感じです。
 それはさておき、頂いたファイルの内容を見て、“調査公害”という言葉が、真っ先に思い浮かびました。これだけの分量の、しかも政策判断を問うような項目も多い調査に対して、回答を準備する現場にどれだけの負担がかかるのか、企画された方には想像がつかないのでしょう。困ったものです。
 評判を呼んだ、読売新聞の「大学の実力」に刺激されて、それに負けじとと意気込んでいるのでしょうが、同じ朝日新聞からは、いまや大学情報のインフラともいえるまでの存在になっている『大学ランキング』の蓄積もあるのですから、そうした既存の調査データを活用し、効率的・建設的に深めるような企画を立てて頂きたいものです。


◆ 配慮のない、傲慢な調査だけど・・・ ◆
O大学 R(職員・部長)

 朝日新聞×河合塾の共同調査に関する地域科学KKJ青野氏の問題提起、それに続く〈“私論公論”の場〉に示された三人の方々のご意見ご対応に同感、共感します。
 一番感じるのは、これだけの質量と微妙な内容の調査を行うにもかかわらず、調査相手に対する配慮というか誠実さが足りないということです。それは、青野氏や三人の方々のご意見とも重複しますが、
  1.この調査の企画・検討・分析の体制や責任者・担当者名を明らかにしていないこと。
  2.なぜ1次調査と2次調査に分けるのか。その理由や相互の関係や2次調査の内容を明らかにしていないこと。
  3.調査結果をどのように取り扱うのか。社会の公器たる新聞紙上から(学校法人とはいえ)受験情報産業のセミナー等に至るまで、広範囲に利用可能な漠然とした説明に終わっており、結局、ランキング処理を含めどのように利用されても異論を唱えられないようにしていることに顕著です。
 自分たちの手の内は明かさず、調査相手には最大限の回答を求める。そのたしなみのなさが、「この際、何でも聞いてやろう」的発想としか思えないいくつかの設問にも顕れています。
 とはいえ、大学側からしてみれば、大新聞社による調査ですのでやはり粗略にはできません。取扱への不安・懸念もあり、このような調査に回答したものかどうか、あるいは「回答の範囲」や「適切な回答」をめぐって、学内で関係者が検討し調整し作成する、その時間的・精神的負担と労力は並大抵のものではありません。
 大学情報の公表の義務化の流れに乗っているし、(河合塾と組んでいるとはいえ)新聞社の調査なんだから、なんだかんだいっても回答しないわけにはいかないだろうとか、回答したくない(できない)設問は空欄のまま提出すればいいんだ、と調査側がもし軽く考えているとしたら、あまりにも、現在の大学がおかれた状況への配慮に欠けた、大学という組織を知らない発想であり、傲慢といわざるを得ません。


(2011年6月1日)


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