緊急提言―朝日新聞×河合塾の共同調査についての“異議あり”
現在、全国の各大学におかれましては、朝日新聞×河合塾の「ひらく 日本の大学」共同調査への回答につき、思案中の各位も多かろうかと拝します。 朝日新聞×河合塾の共同調査をめぐって―その1
◆ 共同調査への不安と疑問 ◆ O大学 K(事務局長) 1.全体について ・OUTPUTが具体的に示されていないので、ランキングにするのかしないのか等? 非常に不安です。 ・使用目的が明確ではなく、朝日新聞がなぜ受験産業である河合塾1社と組んで行う理由が不明確と考えます。 ・中教審の答申に対する履行状況調査であれば、文部科学省がすべきでありますし、HPなどで情報公開されているはずですので、各大学に調査を依頼する必要はないと思います。 2.大学運営について ・C、E、F、Gの質問については、ステークホルダーへの説明が先になされるものと考えますので、構想段階でアンケートに答えられるものではないと考えます。 ・河合塾の学生指導の基礎にされるのでしょうか? と疑いたくなります。 3.学部の学生数について ・退学者等に対する対応状況を調査すべきではないのかと思います。 数字の把握だけですと(たぶん一身上の理由が多く)単に人数だけの比較に陥りやすいと考えられます。 ◆「朝日」調査への批判 ◆ A大学 大庭 毅(理事) 1.大学に対して文科省を始めとした官公庁その他から様々な調査が集中する時期に、このような複雑な調査を押し付けるのは不見識。それも2回に分けて行うとは良識を疑う。 2.偏差値やランキングによらない大学評価の在り方を模索して実施している読売新聞の「大学の実力」調査に対抗する意図があるのだろうが、目的が極めて一般的で、読売新聞の取組との違いや特色がまったくわからない。 3.朝日新聞のような大新聞社から依頼があれば、大学としては表立って批判がしにくいし、調査を提出しないという行動も取りにくい。併せて、河合塾という大手受験産業が後ろ盾となっていれば、その傾向は一層強まる。いわば、大学に対して有無を言わせずに調査に協力させようという意図が見える。 4.読売新聞の「大学の実力」調査は、担当者が誰で、調査の企画・分析はどういうメンバーで行われているか公開されている。朝日新聞の今回の調査は、担当部局は書かれているものの、「誰」が担当しているのか、どういうメンバーが調査を作成し分析するのか、全然「顔」が見えない。大学の良いところも欠点も明らかにさせようとするのであるから、調査する側の「顔」は公開すべきであろう。自分たちは組織のお面を被っていて、相手に対してすべてさらけ出せというのは、強者のおごり以外の何物でもない。 5.朝日新聞は「大学ランキング」の功罪についての総括をすべきであろう。今回の調査が改めて大学間競争を煽るためのものなのか、あるいはそうではないのか見極めるためにも必要であろう。 6.「大学の実力」は、定量的なデータだけでなく、おもわしくないデータであっても、大学としての改善・改革の取り組みを紹介したり、孤軍奮闘している教職員の取り組みを紹介している。そのように、困難な中でも努力し、成果を上げている教職員を励ますようなことがされるのであろうか。 7.調査内容について 1)設問TのA いきなり考え込んでしまうような設問は不適切である。設問の意図もわからない。 2)設問TのB 意味不明の設問である。天下りの数を聞いてどうしようとするのか。 3)設問TのC これもまた何のために聞いているかわからない。 4)設問TのD〜G このような取組を検討している大学はそれほど多くない。レアケースでさえある。これまた設問の意図がわからない。 5)設問TのH 学費改定について、この時期に予定を公表することはほとんどあり得ない。この時期の質問として無意味。 6)設問TのI・J この設問は大学としての取組でなく、企業に対する要望となっている。調査全体の中での意図がまったくわからない。 7)設問UのA この設問に回答させてどのように評価しようとするのか。 8)設問UのC 学部・学科ごとに記入させて、どのように活用しようとするのか。 9)設問V ほとんど「大学の実力」と同じ調査である。これをどう活用しようとするのか。 10)設問W 学募の学費等についての設問ということだが、内容は奨学金となっている。 この設問結果の活用はどのようにしようとしているのか。 11)設問X〜Z ほとんど「大学の実力」と同じ調査。どう活用するつもりか。 12)設問[ どのように活用するのか不明だが、学校基本調査と同じ様式ならば、そのコピーでよいのではないか。 13)設問\ 調査の対象をどこまで広げるつもりなのか、何のために大学院の状況まで加えるのか、まったくわからない。 本調査の意義自体に改めて疑問を持つことになる。 ◆ 協力できない旨を電話にて直接伝えた ◆ M大学 K(事務局長) 私どもの結論は、アンケート回答には協力できない旨を東京本社に、私が直接電話して伝えました。 相手が天下の朝日新聞故に、いささかの恐怖心に似た感情を覚えながらも、概ね下記のような理由で断りました。 ・零細規模の少人数職員の大学では経常業務さえゆとりがないこと。 ・同様のアンケートが、毎年多くの進学雑誌の会社、他から求められ辟易していること。 ・アンケートの回答の活用方法が見えない・・・零細大学に不利な公表になることを懸念したこと。 ・アンケートの回答を求める内容について、文部科学省の学校基本調査と重複する部分がかなりあること 以上のようなことを述べて回答を断りました。 (・・・マスコミの合法的な報復措置をおそれながらも・・・) いずれにせよ、今般のアンケートに関し問題視されている方が、おられることについて、心強く感じました。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 投稿をお待ちしております。 大学名及びお名前はイニシャルまたはペンネームをお使い下さい。 (2011年5月24日) ------------------------------------------------------------------------------------------ 朝日新聞×河合塾の共同調査をめぐって―その2
◆ 記者が多角的に取材すべきもの ◆ 教育ジャーナリスト 矢倉 久泰 調査の目的として「大学の全体像と特徴」や「大学の比較と大学選択の情報提供」を挙げているが、第1次調査票を見る限り、膨大な質問量の割にはデータ中心で内容がお粗末。この調査では、大学の全体像や特徴などが、さっぱり分からない。 調査の目的からすれば、どういう人間を育てようとしているのか、どのような教育に力を入れているのか、特色あるカリキュラムは何か、どのような教養教育・専門教育を行っているのかなど、教育の特色を浮き彫りにする質問が必要ではないか。 もっとも、そういう本質的な調査は、予備校と組んで行う安易なアンケート調査(ほとんど大学のホームページで分かる)ではなく、記者が大学を訪問して多角的に取材すべきものである。 ◆ 調査公害 ◆ Y大学 I(専門職) 実は、地域科学研究会のメールニュースで今回の調査が行われている事を知り、青野さんより転送して頂いたファイルにて、初めてその内容を目にした次第です。 入試広報を担当している部署にいるので、入学者選抜に関わる内容を含む調査であれば必ず回ってくるはずなのですが、こうした外部からの包括的な調査の窓口になっている部署に訪ねてみても、記憶に無いとのこと。ちょっと不思議な感じです。 それはさておき、頂いたファイルの内容を見て、“調査公害”という言葉が、真っ先に思い浮かびました。これだけの分量の、しかも政策判断を問うような項目も多い調査に対して、回答を準備する現場にどれだけの負担がかかるのか、企画された方には想像がつかないのでしょう。困ったものです。 評判を呼んだ、読売新聞の「大学の実力」に刺激されて、それに負けじとと意気込んでいるのでしょうが、同じ朝日新聞からは、いまや大学情報のインフラともいえるまでの存在になっている『大学ランキング』の蓄積もあるのですから、そうした既存の調査データを活用し、効率的・建設的に深めるような企画を立てて頂きたいものです。 ◆ 配慮のない、傲慢な調査だけど・・・ ◆ O大学 R(職員・部長) 朝日新聞×河合塾の共同調査に関する地域科学KKJ青野氏の問題提起、それに続く〈“私論公論”の場〉に示された三人の方々のご意見ご対応に同感、共感します。 一番感じるのは、これだけの質量と微妙な内容の調査を行うにもかかわらず、調査相手に対する配慮というか誠実さが足りないということです。それは、青野氏や三人の方々のご意見とも重複しますが、 1.この調査の企画・検討・分析の体制や責任者・担当者名を明らかにしていないこと。 2.なぜ1次調査と2次調査に分けるのか。その理由や相互の関係や2次調査の内容を明らかにしていないこと。 3.調査結果をどのように取り扱うのか。社会の公器たる新聞紙上から(学校法人とはいえ)受験情報産業のセミナー等に至るまで、広範囲に利用可能な漠然とした説明に終わっており、結局、ランキング処理を含めどのように利用されても異論を唱えられないようにしていることに顕著です。 自分たちの手の内は明かさず、調査相手には最大限の回答を求める。そのたしなみのなさが、「この際、何でも聞いてやろう」的発想としか思えないいくつかの設問にも顕れています。 とはいえ、大学側からしてみれば、大新聞社による調査ですのでやはり粗略にはできません。取扱への不安・懸念もあり、このような調査に回答したものかどうか、あるいは「回答の範囲」や「適切な回答」をめぐって、学内で関係者が検討し調整し作成する、その時間的・精神的負担と労力は並大抵のものではありません。 大学情報の公表の義務化の流れに乗っているし、(河合塾と組んでいるとはいえ)新聞社の調査なんだから、なんだかんだいっても回答しないわけにはいかないだろうとか、回答したくない(できない)設問は空欄のまま提出すればいいんだ、と調査側がもし軽く考えているとしたら、あまりにも、現在の大学がおかれた状況への配慮に欠けた、大学という組織を知らない発想であり、傲慢といわざるを得ません。 (2011年6月1日) |