著者は静岡県立大学経営情報学部教授。スタンフォード大学院を経て、カリフォルニア大学バークレー校で社会学博士号を得ている。専門は国際社会論と情報社会論。
学位商法による弊害を、自分のメルマガ「学歴ネット」、ブログ「学歴汚染」で実証的に暴いている。表題の著作も、フィールドを重視、個々の事例をリアルタイムで報告。目線が広範囲に行きとどいているのは、専門の国際社会論と情報社会論での問題意識を活かしているからだろう。
前著『学歴汚染〜日本型学位商法(ディプロマミル)の衝撃』(展望社、2007年)も衝撃の内容だった。この作でも、広域暴力団の関係者が顧問になっている胡散臭い事例をさりげなく取り上げている(「国際学士院大学――闇社会との繋がりの真偽」71〜73頁)。
著者の孤軍奮闘で、文部科学省も重い腰を上げ始めたようだが、この商法の根は深い。私の周辺でも200万円でPh.D を購入していた者がいた。それも指導教授ではないものの、関係教授から勧められたというから厄介だ。
著者の暴露で商法に危機感をもった当事者が、さまざまな妨害と脅迫を仕掛けてくる経緯は、前著でも複数の事例を明らかにしている。その手口は詐欺師などプロのやり方で寒心させられる。
イオンド大学に関しては、新著『大学偽装〜米国大学を騙る学位商法』(2009、展望社)に詳しいが、その中に保守系論者の著名人が二人出ていて驚いた。
すでに故人になった名越二荒之助(高千穂商科大学教授)と著者とは米国の大学で同窓かつ面識のある伊勢雅臣 <ペンネーム>(国際派日本人養成講座主催者で、大手エレクトロニクス社長)。
確信犯なのか、それとも乗せられていたのか。名越教授は確信犯だったようで、伊勢氏はその名越教授の紹介で名義貸しだったようだ。が、著者の忠告で削除を主宰者に要求したにもかかわらず、ネット上では教授のままだ。
名越教授は風変わりな方で、一度だけ遠くから見たが、挨拶の内容を聞いていて、それ以上近づこうとは思わなかった。この本を読んで、近づかなかった理由の一端が分かった。物事の真偽の間にあるグレーゾーンで、主催者側の詐話を「真」に引き寄せて解釈したのだろう。著者に、主宰者が「偽装大学」を正当化する理由に、堂々と吉田松陰の松下村塾を引用していたところから連想した。さらに、「小道具」が薬味としてあったのか?
大学など高等教育機関にすでに職を得ている者の多くは、履歴書から削除するだけで知らん顔。だが、審査段階での提出書類に記していた者はどうなるのか? そういう教育者が学生を指導していいのかと憂慮する著者は、学位という分野が巧妙な詐欺商法の横行で不当に拉致されている実態を提示し警鐘を鳴らす。
インチキだから買わなければいいだろうと、関係無い者は思う。詐欺は売る側と買う側の共同謀議で、一方だけが悪いわけではない、という言い方が罷り通る。だが、そうか? 摘発では、韓国は日本よりも先進国のようだ。罰則の厳しさは米国の事例を援用したのだろう。
この両書を読むと、学位商法を軽犯罪法で取り締まる程度では、日本の学位の評価は後進国と看做されても仕方ない。学位を欲しがる者が多いから、学歴や博士号、名誉教授などを売る「偽装大学」というこの種の詐欺市場は成立する。それは、大学や学位の権威があるからだ。ならば、権威を守る法制は整備される必要がある。
ことは個人の詐称問題で終わらないからだ。日本社会が学位をどのように受け止めているかの自浄能力が問われている。それは引いては、国際社会での日本国のデグニティにも関わる問題でもある。
大学など学校法人の理事者は、一度は目を通しておく必要のある著作と思う。多忙なら、ネットでメルマガ「学歴ネット」とブログ「学歴汚染」は閲覧してみることを勧める。問題の深刻さがわかると思う。
なお、『学位商法』は刊行元が最近の出版不況で倒産したが、アマゾンでは購入できる。また『大学偽装』は09年6月、展望社から発売されている。
参考:
「E-Magazine 【 学歴ネット 】」
http://www.emaga.com/info/cocoro3.html
「学歴汚染(ディプロマミル=DiplomaMill=学位称号販売機関による被害、弊害)」
http://degreemill.exblog.jp/