2008年9月20日

法科大学院と新・法学教育シリーズ<2>
〜第3回新司法試験結果の分析レポート〜

塚本 雅基
(株)法学館・伊藤塾法科大学院情報センター室長
法科大学院・司法試験主任コンサルタント



 去る9月11日に発表された新司法試験の結果は,事前の予想よりも厳しいものになっていますが,2,065名合格は想定人数の下限ではあると思います。
 以下,分析を論展します。なお,本論考は伊藤塾の公式見解ではなく,あくまでも私論であります。


□新司法試験対策が明暗のカギ□

 それより注目すべきは,新司法試験対策をしている法科大学院(以下,LSと略)としていないLSとの差が出てきたという印象を受けます。昨年までのLS卒業生は,未修の一部を除けば旧司をやっていた方々だと考えられます。
 そのため,新司対策を行わないLSであっても一流といわれる大学が設置したLSであれば,入学時,ある程度,法律を勉強しているし,ポテンシャルの高い学生も集まり,そこそこの合格率を出していました。

 しかし,今回は,一流大学のLSであっても,合格率が低迷するLSが明確に出てきました。


□関西エリアの状況□

 代表例としては,京都大LSがあげられます。合格率41.5%と平均(33.0%)こそ超していますが,昨年までの勢いはありません。
 関西でも,新司対策に熱心な神戸大LSが伸びてきています(54.7%)。関西で50%を越したのは同LSのみです。旧司受験生が減少し,LS既修希望者でも旧司を考えずにLSのみを考え,受験をする方が増えています。


□東海エリアの状況□

 このような状況において,新司対策を行うLSが合格率を伸ばし,そうではないLSが低迷していくことは当然といえます。東海エリアにおいても,愛知大LSは,合格率45.7%で名古屋大LSの32.7%(平均を割っていることに注意。旧帝大では,名古屋大LSと北大LSが平均を割っている)を大きく上回っています。

 文部科学省が,試験対策をすべきではないといっても,生き残りをかけるLSにおいて合格率を上げなければ受験してくれる人がいなくなるでしょう。


□関東エリアの状況□

 関東でも試験対策を行っている慶應・中央・一橋はいい結果を残しています。東大LSは,54.6%でさすがだと思いますが,試験が上手く,頑張れる人が一番多い学校ですし,試験情報が豊富な東京にあることもあるのではないでしょうか。逆に言うと,それでも半分は落ちているということです。
 早稲田大LSは,37.7%で平均を超す結果を残しました。旧司法試験でトップを極めた大学が設置したLSとして十分な結果とはいい難いが,理念派LSとしては踏ん張っていると考えます。これから早稲田大が法学部3年制コースの魅力ある再構築とともにLSがどう舵をきるのか注目が集まっています。


□2011年予備試験を見すえた戦略シナリオ□

 これからのLSは,大学のブランドがない大学のLSは,試験合格対策,修習対策・就職対策をとって当該LS入学者のニーズにこたえるべきです。そうでなければ,2011年に始まる予備試験後に生残るのが難しくなっていくのではないでしょうか。
 つまり,優秀学生はLSをパスして,直接,予備試験にチャレンジするでしょう。合格者枠が500人程度になれば,かなりのインパクトとなります。
 とにかく,LS生に短期的,中期的,長期的と分けて目標を与えることが必要です。簡単な例を示します。

 1年次→1年次終了までに,新司短答式が平均点を取れるようにする(カリキュラムにもよるが行政法は2年次でも構わないが,最低でも憲・民・刑・商を仕上げる)。

 2年次→論文答案を書き始める。いきなり,新司法試験の論述問題は書けないので,シンプルな問題(1時間1問程度。旧司法試験の問題を解けといっているわけではない)。短答式の7科目を仕上げる。完全である必要はないが,2年次終了までに短答が仕上がらなければ論述に向けての準備が出来なくなります。選択科目の選定と基礎的なインプットが必要。

 3年次→論述対策仕上げ。3年次春には,新司法試験模試を受け弱点分析を行うことが必要。自分に何が足らないのか,どうすればいいのかは,1年位前に分析しなければ間に合わない。

 教員の方が,「(当該LSで)このくらい勉強していれば,5年3回のうちには合格できる」という旨の発言を学生の方にされたそうです。
 結果として,そうなることはあっても,卒業年次1回目の合格を狙わなければ合格から遠のくばかりではないでしょうか(昼夜開講,夜間の社会人院生を除く)。
 1回目での合格が就職にも大きく影響していると考えられます。LSとしては,卒業した年の合格に向けた指導が求められるものと考えます。


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