高等教育ハンドブックシリーズ第5集

2008年8月18日

キャンパスセクハラ対策の進化〜事案争点と処分・裁判編
〜はじめに〜

地域科学研究会 高等教育情報センター


 大学での取組みから「セクシュアルハラスメント」という言葉が,今,隠れつつあります。アカデミック,パワー・ハラスメントを含む「ハラスメント防止対策」への総合展開の中で。それは確かに重要なステップアップではありますが,やはり「セクハラ」という固有で深刻な領域への賢明なる対策の必要性は今も変わるところではありません。18歳から20代半ばの男・女を構成員の大部分にかかえる大学は,残念ながら「セクハラ」とこれからも無縁とは考えられません。

 2004年2月に『キャンパスのセクハラ対策〜調査・紛争処理編』を刊行し,法的対応と危機管理へのガイド書として関係者に活用いただいて参りました。その直後の同年4月から国立大学は法人化による非公務員化の中で,法的には学校法人と同じ立場となるという大きな動きがありました。また07年4月から改正男女雇用機会均等法が施行され,対象が女性労働者から男女労働者へ拡大されるとともに,事業主の「配慮義務」から「措置義務」へと雇用管理上の強化がなされました。その間,06年1月には,最高裁での愛知大学全面勝訴の重要判例が出ております。これらを背景として,本書『事案争点と処分・裁判編』を上梓するものです。

 さて,本書のPartIの井口博論考では,大学キャンパスにおけるセクハラ事案の特徴と争点,被害者救済と加害者責任追及のプロセスと留意点,裁判事例と教訓,そして今後の対策の進化について,詳細かつ具体的に論展いただきました。特に,人権侵害の視点から,相談・調査・処分段階から裁判に至ることへの法的対処を充全になすべきことのポイントを明示いただきました。京大矢野裁判以降のセクハラ・性犯罪事案の多くに弁護人として係わってきた第一人者として,トータルかつ決定版といえる危機管理・教育研究環境整備のガイドとなっております。

 PartIIの渡邉正論考では,愛知大学セクハラ裁判事例における,加害教員への処分後の「教育上の措置」をめぐる大学側の最高裁全面勝訴についてのプロセスの詳細を報告いただきました。大学教員の特殊な雇用慣行〜特に教授権をめぐって,事件の深刻な経緯と問題がくっきりと浮き彫りとなったケースです。被害学生の救済と教学環境の改善措置という,大学側の一貫した主張と正当性が認められたという重要な判例となりました。大学が事業主としての責務〜大学法務の制度整備と危機管理体制の確立に向けた,貴重なる提言となっております。

 本書が,全国の国公私立大学において,セクハラ対策の運用充実と進化,女性のポジ  ティブ・アクション,ジェンダーフリーの人権尊重キャンパスに向けて,日々尽力し精励されておられる各位への強力なサポート役を果たすことができれば幸いです。


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