高等教育シリーズ第29集

2008年6月25日

教員評価制度の運用と大学風土改革
〜はじめに〜

青野 友太郎
地域科学研究会 高等教育情報センター


 “学士課程教育の構築”が,大学世界における,現下の最大テーマとなっております。中教審大学分科会制度・教育部会学士課程教育の在り方小委員会が2007年9月に『審議経過報告』を取りまとめ,08年3月に部会の『審議のまとめ』,そしてこの夏には中教審『答申』となる運びです。ユニバーサル化とグローバル化の進展の中で,大学・短期大学は,多様な学生層と新たな教育研究ニーズへの対応が急務となっております。
 そして,高等教育改革の実質的なステップアップの最大のカギは,“教員の個人力”と“ファカルティの組織力”をサポートする「教員人事の活性化」といえます。2004年度の認証評価の制度化,国公立大学の法人化等による競争的環境の激化の中で,各大学は機動的・戦略的な運営を行い,教員への任期制及び業績主義に基づく人事制度が導入され始め,評価・処遇システムの開発が進んでいます。その中でも,教育的機能が改めて重視され,教育業績評価への取組は最重要テーマとなっております。

 さて,本書は2003年3月刊『教員評価制度の導入と大学の活性化』に続く「教員評価」PartIIかつ決定版となるものであります。同書は同時期に刊行した『成績評価の厳格化と学習支援システム』とセットで,多くの大学でご活用いただいてまいりました。同書は01年12月及び02年7月に開催したセミナー講義・事例をベースに編集したものですが,その後,03年7月から06年12月まで7回のセミナーを開催し,「教員評価・人事制度」の理念・事例をホットにフォローしてきました。本書では,導入期における前書から5年余にわたる12大学の先進的な取組み状況,3件の全国調査結果の分析,そして,基本理念と進化に係る貴重な論考及び豊富な資料編を含めて,今後の「大学教員の人事・評価・処遇システム」の進化と展開への実践的ガイド書となっております。

 本書における高等教育コアパースン各位の玉稿を拝読しながら,「教員評価」に先行して,やはり「教員人事」についての今後の基本ポリシーが重要と考えました。そこで,独断的で恐縮ですが,いくつかのポイントを下記に論展することをお許しいただきたい。

  • 大学教員は「大学という学校教育機関」の一員として,教育・研究を本務とする組織人。(個人事業主でありたい人は私塾をおこすべし)
  • 専任教員は原則週5日は出校し,研究室をベースに終日,仕事に従事。(研究日で出校しないのならば,“研究”室は不要)
  • 専任教員と称するためには,最低週3日は出校。他所に定常的な仕事を持つ場合は,任用契約において明確化。(実務家教員は週1〜2日は実務職を継続)
  • 専任教員は,他大学等における兼任講師は原則禁止。(多くの非常勤講師が専任教員への途)
  • 教育課程は,専任教員の担当授業科目を主体に編成し,そのコアカリキュラムが自ずと“特色”。(他大学教員の講義は,通信制受講又は夏・春学期の集中講義,及び単位互換方式)
  • 大学教員を教育系教員と研究系教員に2大種別化。大学は採用募集時にその別を明示。(大学としては,教育系教員を優遇)
  • 教員の4大職務〜教育,研究,経営管理,社会貢献のウエイトについて,前年度に自己申告し,大学側と協議。(教員の自主性・主体性の尊重)
  • 学長・学部長・学科長等は,経営管理及び業務執行者としての専門職化。(経営陣が学長,学長が学部長・学科長を任命)
  • 教育系教員は「ティーチング・ポートフォリオ」を毎年作成するとともに,『教育紀要』に論考を執筆。(ユニバーサル期の多様な学生に対応する新たな教員像)
  • 研究系教員は大学附属研究所・研究センターを本務とし,研究資金は国・公・民間の公募型外部資金を調達するとともに,企業等との共同研究。(1人研究所方式・プロジェクトディレクター制の積極活用)
  • 大学院教員も教育系教員をコアとし,大学院生のTA指導強化による大学教員養成の拡充。(大学教員の養成システムの高度化と教育力の向上は最重要)
  • 学生授業評価アンケートは学期の中間及び学期末に実施。卒業時及び卒業後3年,10年目にも実施。(教員個人及び教員団としての活用)
  • 『教員ハンドブック』を作成し,大学教員としての職業倫理とともに,組織人としての義務と責任の明確化。(採用時・昇任時において,熟読後に誓約書にサイン)
  • 各学会の中に,「シラバス・テキスト作成委員会」及び「教授法委員会」を設置し,専門分野ごとのエクセレンスを大学教員が共働して作成。(専門分野認証の前提としてまず着手すべき)
  • 中・高齢社会人を教育系教員に積極任用し,学生の人間性・社会性・市民性・キャリア力の養成。(アカデミック系教員とのティーム・ティーチング授業も)
  • 短期インターンシップから,3カ月・6カ月の“コーオプ教育”に進化させ,多様な社会現場において実務系客員教員を任用。(2・5年制短大,5年制大学システムの創意・導入)
  • 大学教員は,「大学という学校制度」の制約の中で,“学識”の持つ本質的営みへの知的誠実性と自律主体性を保持すべしというアンビバレンツに立つ。(知的コミュニティとしての大学キャンパスの再構築へ)

 小会の「高等教育資料シリーズ」は1981年8月に刊行スタートし,この27年余で本書が29冊目となりました。日本の高等教育アーカイブズの一翼を担うものかと存じます。本シリーズは大型A4判で208頁から1,146頁という分厚い書籍となり,読者各位から,再三,「何とか,持ち運びできる判型で」とのリクエストをいただいてまいりました。しかしながら,本書シリーズにおいては,各執筆各位に対して,原稿枚数の上限を定めず,かつ図表・原資料類を可能な限り公開していただくという方針であります。誠に恐縮な次第ですが,職場又は書斎にて,ご高読賜りたく存じます。また,本シリーズを理事長・学長室,図書館及び大学教育研究センター等に常備いただけましたら幸いです。

 最後に,ご執筆各位,貴重な資料を提供いただきました諸団体及びご支援を賜りました有志各位に深謝申し上げます。


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