高等教育シリーズ第28集 2007年11月20日 監査業務の実質化と機能強化策
青野 友太郎 「すべての人類は,この地球という“宝石”を次代に引き継ぐ責任がある」「統合報告書で科学者たちは明確に声を発した。……各国の政治家に同様の行動を取ってほしい」と,この17日スペイン・バレンシアでの国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会で,潘基文国連事務総長は,ポスト京都議定書の合意に向け訴えた。またパチャウリ議長は母国のガンジーの言葉を引用し「何かを変えたいと思ったら,まず自ら行動しなさいと彼は言った。世界を変えるため私たちには,ライフスタイル,行動,そのすべてを変えていく新しい倫理が求められている」と発言した。(東京新聞,2007年11月17日) 大学法人における“ガバナンスと内部統制”“監査業務”に係る初の本格的資料集として,本書を2007年師走に関係各位にお届けいたします。市ヶ谷に向かう東郷坂のアスファルト路上に,例年より遅く散った黄・紅の落葉を軽く踏みしめながら,2つのキーワードを反芻していました。それは,“慎しみの心”と“知的誠実性”であります。大学という時空間が,その時代と社会の“知の最先端”にあるならば,“地球温暖化対策”においても,大学キャンパスはフロントランナーであることを要請されています。しかしながら,残念なことにその様な状況になっておりません。 本年5月に文部科学省より国公私大学法人宛に温室効果ガス排出量削減のための自主行動計画策定促進に向けた通知が発信されています。国公立大学は2005年の4月施行の環境配慮促進法に基づき取組みが開始していますが,私立大学(学校)は自主行動計画未策定13業種(既策定85業種)の1つです。現在,全私学連合が受け皿となり,私立大学諸団体での取組みがスタートしたところであります。去る04年12月に小会において,環境配慮促進法施行に先行し「大学の環境マネジメントシステムと環境報告書」セミナーを企画しましたが,参加大学が極少で見事に中止せざるを得なかったことを思い出します。大学の社会的責任(USR)が,この数年来語られ続けておりますが,足が“地球”に立っていないことを痛感します。市場経済サイドからの“排出権ビジネス”は横におき,大学は“大学らしいスタイル”による本源的な取組みに挑戦することを希求するものです。
さて,小会では“監査業務の実質化と機能強化策”に係るテーマについて,2002年から5回にわたり下記のセミナーを開催してきました。(敬称略,所属:開催時)
この1年間の,企業・省庁・自治体・第3セクター等の諸団体,そして学校・大学を巡る幾多の不祥事と犯罪行為を想起する時,“ガバナンスと内部統制”についての“すべての言説”がむなしくなります。監事・監査役・外部監査人・内部監査人の職務達成や機能強化は確かに重要事ではありますが,その業務をいかに緻密にルール化し厳格に実践しても,賽の河原の営みと思えます。人間一人ひとりの内面,そして組織・団体の創設の精神に息づく,“パワーある何か”が大切であります。それは,“慎しみの心”と“知的誠実性”ではないでしょうか。 現在,企業社会では2008年度からの「内部統制ルール」適用への対応策に追われ,書店にも膨大な関連書籍が山積みされています。しかしながら,大学社会は本来的に課題設定が異なると考えられます。つまり,“教育・研究”が本務である大学の使命は明瞭であり,その構成員・組織と役割・業務は,他業種と比べてシンプルかつ明解なものといえます。属人的な要素の強い,かつ対・共同の関係性が全てともいえる世界であり,極端に言えば,大学という組織体には,秘密にすべき情報は極めて限定されています。その意味ではプロセスの透明化,情報開示の徹底化による計画づくりと業務執行により,内部統制・監査システムのウエイトは限りなく小さなもので可となります。理事・役員会によるガバナンスの構築と実質化こそが現段階の最優先の挑戦テーマといえましょう。 例えば,本年度の設置認可案件から新設大学の計画情報が文科省のホームページ上で公開されます。某大学のトップが「それでは教学ノウハウが盗まれてしまう……」と危惧していました。しかしながら,「教育課程」がソックリであっても,教員は違います。職員スタッフも。そして,学生自体が全く異なり,大学コミュニティのコア時空間はマネなど出来ようもありません。また,本年の最大の痛恨事は1954年から53年余刊行されてきた『全国大学職員録』(廣潤社刊)の廃刊です。個人情報保護法は,電子データベース上の規制をすべきところを全てに網かけをしてしまったことが最大のミスであります。同法への無定見な過剰反応により,悪貨が良貨を駆逐してしまいました。小会が2006年4月に開催した「個人情報保護法の検証と進化」セミナー参加者へのミニアンケートでは,(1)役員(理事・監事)の職位・氏名は9割,(2)主要職員の職位・氏名は8割,(3)教員の職位・氏名・専攻科目は9割,学位は6割が「開示すべき情報」との回答でありました。特に,最大手大学の多くが談合のごとく,出版元への情報提供を拒否したことが廃刊の引き金となったことは忘れてはなりません。大学という知的共同体のコア情報である個人情報を組織体として非開示にしてしまったことの大学人の非見識を強く弾劾するところであります。『全国大学職員録』は,大学世界の貴重なデータベースとしての共有財であり,社会への重要な公開情報でした。大学は公表を基本スタンスとして,ある特定項目についてのみ,個人の要請による非掲載とすべき事柄ではないでしょうか。
さて,本書の企画・編集のポイントは下記の通りであります。
本書が大学のガバナンスと経営管理,内部統制と監査業務に携わる関係各位にとっての,座右の書として,ご活用いただけましたら幸いです。 |